金魚すくい
「先生方っ!はやくはやくっ」
会津の小鉄の一家が去った後、子どもらが引き返してきた。
みな、掌に水飴をもっている。
箸についたそれを、きれいに伸ばしてはなめている。
そういえば、子どもの時分に祭りにいったという記憶がない。
「先生、金魚すくいをしたい」
さすがはねだり上手の玉置である。
金子をもっている永倉のほうにお願いするのも、さすがとしかいいようがない。
「よしっ!みなでやるか」
永倉が、着物の袖をまくりながら宣言する。
わっとわく、子どもたち。
「主計さん、あーん」
田村にいわれて口を開けると、水飴が口のなかに箸ごと差し込まれた。
口のなかに、甘みがひろがる。
すごく上品な味である。うまい。
甘いものはさほど好きではないが、これはうまいと思う。
こういう場所だから、ということもあるんだろう。
「鉄っ、相棒にはやってはだめだ。犬は、甘いものはだめなんだ」
すんでのところで、市村を阻止する。
が、口のなかには入らなかったものの、髭と口の周りの毛にこびりついている。
ぺろり、ぺろり、と赤く大きな舌で舐めとる相棒。
「ふむ」、という表情になる。
市村の掌に握られている水飴を、じっと瞳で追っている。
「くーん」と、甘えた声でねだる。
「わかったわかった。すこしだけだぞ、相棒?鉄、すこしだけやってくれないか」
「うん。そら、兼定」
市村が自分の指で水飴をすくい、それを舐めさせてやる。
犬は、味覚がほぼないといっていい。
みながうまそうに舐めているのをみ、ほしくなったのであろう。
金魚すくいは、現代のような風呂桶の浅いようなもののなかで泳いでいるわけではない。寿司桶の大きいバージョンに入れられ、たくさん泳いでいる。
金魚は、古来よりある日本独特の観賞魚。
主人からポイを渡される。ポイも、形はおなじである。針金に張られた和紙は、もしかすると現代よりいいものが使われているかもしれない。
現代は、合成紙なのであろうか?
寿司桶がいくつか並んでいる。客は、おれたちだけである。
新撰組金魚すくい大会、である。
子どもらは子どもらで、大人は大人どうしで、それぞれ愉しむ。
最後には、サシの勝負っぽくなっていた。
すくった金魚をもらえるところも、おなじである。
ゲットした金魚は、周囲で見物しているほかの祭り客におすそ分けする。
めっちゃ愉しかった。
相棒も、愉しそうに金魚を眺めていた。