表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

609/1254

いまさらですが 副長はきったねぇ

「おいおい。揃いも揃って怖気づいちまってるってか?」

「いえ、副長。おそれながら、昨日の大雨で地面はぬかるんではいますものの、すぐうしろには葦が密生しております。空気は乾いておりますゆえ、火が燃えうつろうものならあっという間に延焼してしまいます。そうなりますと、火の粉が民家に飛び散り、村の家々まで燃えてしまいまする」


 なにせ副長は、勝負事であろうとなかろうと、こと剣術にかけてはきたなすぎるのである。胡椒爆弾を投げつけたり、油を投げつけたり、投げつけたうえで火をつけたり・・・。


 シリアスなシーンであっても、副長なら、燃やしまくって平気で高笑いそしそうである。


 もっとも、残念なことに、そのきったないのことごとく、双子には無効なのだが。


「ちょっとまて、たま。おれは、剣術の指南をっていってるんだ。なんで火事の話になってる?それに、おれがまるで火附けみてぇじゃねぇか?」

「えっ、ちがうんですか?」


 ネタかと思って、反射的にツッコんでしまった。ソッコー、副長に脚を踏みつけられた。


 ふふっ。軍靴だから痛くないもん・・・。


「って、いってー」


 脚は囮である。後頭部を思いっきりはたかれてしまった。


「副長っ!きたないではないですか」

「馬鹿いってんじゃねぇ。いつもいってるだろうが?勝負は勝つか負けるか。その経緯はどうだっていいんだよ・・・。それに、さっきの燃えちまうってのは、おれが人間ひとや物を燃やしまくってるみてぇじゃねぇか」


 俊冬の表情かおが、さらに胡散臭気にゆがむ。


 あっ、いまのはおれでもよめる・・・。あの(・・)俊冬の表情かおを、よむことができたのである。

 おれって、すごーい!


 思わず、「コOペンちゃん」のごとく、自分自身をたたえておく。


 そして俊春は、副長の心中をよんだり、口の形をよんだりってことすらせず、それどころか意識を地球の真裏にまで飛ばしているのか、ぼーっと空を見上げている。


 相棒もまた、口吻を半開きにして「うげっ」ってなってる。


「くそったれ。たとえお情けの目録でも、一応は剣術やっとうができるんだぞ。そりゃぁ、まともな技は、なに一つねぇかもしれんが。それでも、たまにはやってみてぇって思うときもあるんだよ」


 なんてこと・・・。自分で認めてる。いろんな意味ですごい。


 さすがは、土方歳三。これも、超絶イケメンという理由だけで、ゆるされるのだからお得であろう。


「ぽち。勝負に指名してやる。案ずるな。燃やし尽くしたり、油やら胡椒まみれにしたりってのは勘弁してやるからよ」

「って、あたりまえやないかいっ!」


 上司に対し、ツッコミをいれてしまうおれ。もはや、条件反射になってしまっている。


「す、すみません。つい、ツッコんでしまいました」


 後頭部をはられるまえに、謝罪しておく。


 やさしい俊春は、副長の手話まじりの、なかば強制的な勝負を挑まれても拒否らない。


「おいおい。おれ様を相手に、無掌でこようってのか?」


 おれ様系が、またとんでもない勘違いをぶちかましてくる。


「これは、失礼いたしました。なれど、たまとじゃれあうだけのつもりでいましたゆえ、得物をなにももちあわせておりませぬ」

「どうでもいいことですけど、ぽちたまは、マジで得物に無頓着なのですね。散歩係のおれですら、いまでは左腰に「之定こいつ」がなければ落ち着かないというのに・・・」


 いつだったか、双子におなじことを尋ねたのは、永倉であったろうか。


武士さむらいや剣士ならば、そうであろう。なれど、われらはそのどちらでもない。ゆえに、頓着せぬ。得物じたい、めったとつかわぬ。他人ひとを殺るのに得物をつかわば、無念がのりうつってしまうのでな」


 俊冬のいいたいことは、なんとなくだがわかるような気がする。


「ゆえに、永倉先生の「手柄山」や斎藤先生の「鬼神丸」からは、そういった負の力を強く感じられる」

「え?それって、持ち主にも悪い影響を与えるんですか?」


 それこそ、風水とかバッドアイテムみたいな感じで?


「遣い手がそれらに負けぬゆえ、問題はない。それどころか、それすら糧とされていらっしゃる」


 永倉も斎藤も、やっぱりなんかすごいんだ。


「だとすりゃぁ、「兼定こいつ」も、とんでもなく負の気ってのをまとってるんだろうな」


 副長は、怖ろし気に左腰の得物へと視線を落とす。


 俊冬は、おなじように視線を「兼定」へと向ける。


「副長。ご心配にはおよびませぬ。お忘れでしょうか?副長の腰のものは、二代目「兼定」でございます」

「おっと。そうだったな」 


 副長のいまの「兼定」は、二代目である。


 まだ新撰組おれたちが京にいたころ、病床の沖田が俊春と剣術試合をおこなった。その際、会津侯は二振りの「和泉兼定」をサプライズで準備してくれたのである。

 

 それらは、双子に下賜された。が、俊冬は「関の孫六」を、俊春は「村正」を、それぞれ所持している。ゆえに、俊冬は「兼定」を副長に譲り、俊春は養子の松吉に譲ったのである。副長が所持していた「兼定」は、俊春のもう一人の養子である竹吉に譲られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ