表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

607/1255

それぞれの想い

「どうした。眠れぬのか?」


 副長は、は双子へ向けたままさらりと問う。


「はい。さみしくなったことと、数日さきのことを考えると、が冴えてしまいまして。副長もですか?」

「あいつをさきに向かわせてよかったんだと、自身にいいきかせてる」


 そのつぶやきに、はっとしてしまう。


 あいつというのは、斎藤にほかならない。


「ええ。いい人選だと思います」

「あいつは、生真面目すぎる。それに、他人ひとのことなどどうでもいいようにふるまっていて、じつは他人ひとを重んじすぎるきらいがある」

「ええ。おれもそう思います」

「かっちゃんの死を、身近に感じさせたくねぇ。あいつのことだ。一人でも敵に斬りこみ、派手に死んじまうだろう。将来さきに伝えられてることが、どうってわけじゃねぇ。新八や左之、総司や平助同様、あいつも生き残るべきだ。かようなくだらぬ争いで、生命いのちを断たれるべきじゃねぇ」

「ええ。おっしゃるとおりです」


 副長のは、肉弾戦を繰りひろげる双子へ向いているものの、ちがうものをみている。

 

 とめどなくでてくる想いを、おれはうまくキャッチできているだろうか。いや。キャッチはできているんだろうが、うまく返すことができないだけか。

 

 情けないことに、おなじようなフレーズを繰り返すだけで、気の利いた言葉の一つもでてきやしない。


「おまえも、あいつらもだ」


 副長はそうつぶやくなり立ち上がる。そこにきてやっと、おれをまっすぐみおろし苦笑する。


「無論、兼定もだ」


 そして、相棒にもいう。


 なら、そこに副長は入らないのですか?生き残るべきなのは、あなたも同様です。


 そういいかけるよりもはやく、副長は、土手をすべるようにしてさっさとおりていってしまう。


 雑草を踏みつける軍靴の跡が、二本の線となってまっすぐ伸びてゆく。


「相棒、いくぞ」


 おれたちも、慌ててそのあとを追う。


「おまえら、そのへんにしておけ」


 副長は、いまだ体術の応酬をつづける双子にちかづきつつ怒鳴る。すると、双子は同時にバック転でたがいに距離をおき、構えと気をとく。


 息を整えつつ、着物を着なおしながらこちらへちかづいてくる。


「怪我はしてねぇだろうな」

「させぬよう、手を抜いておりますゆえ」

「させてはいかぬゆえ、力をおさえておりますゆえ」


 副長の問いに、俊冬と俊春の答えがかぶる。


「なにぃ?最近、兄をないがしろにしてはおらぬか、ぽち」

「なんと。たまこそ、弟に理不尽な暴力をふるってばかりではありませぬか」


 同時にいいあう双子。


 副長がちいさく笑う。それにつられ、おれたちも笑ってしまう。


「風呂で見苦しいっていってたのは、その傷のことだろう?」


 副長は、不意に笑いをおさめ、すらりとした指で俊冬、それから俊春のはだけた胸元を指し、問う。


「主計とおなじような傷痕がおおいな」


 その指摘に、俊冬はちいさく息をはきだし、俊春は口の形も心中もよまなかったていで通すつもりなのか、視線を泥まじりの地面へと向ける。


 副長のいう、おれとおなじような傷痕というのは、銃創によるものである。


「この道に入り、ずいぶんと経ちます。依頼は、異人に関係するものがおおございます。刀や槍を相手にするより、拳銃や銃といった飛び道具を相手にすることのほうが、ほとんどというわけです。まだ幼き時分ころは、銃そのものがわかっておらず、無鉄砲にかかっていったものでございます。そして、わが身をもってその怖ろしさや威力を学んだのです」


 俊冬は、副長から川の水面に視線を転じる。


 幼き時分ころ・・・。

 そんなにちいさな時分ころから、暗殺や密偵を?


「二人とも、それにしちゃぁ傷痕がおおすぎやしねぇか。おれは、銃に関しちゃ素人だが、そんだけ弾丸たまを喰らって、よく生きてるなって思っちまう。主計なんざ、たった一発で死にかけたらしいしな」


 あの、副長。高齢者の病気自慢じゃないんですから、そんなこと引き合いにださないでいただきたいです。


 俊冬は水面からおれへ、俊春は地面からおれへ、刹那くらいの間、視線が移ってから、まだ元の位置へ戻る。


 てっきり、俊冬が「腕がちがう」とか「主計は油断しすぎ」とか、揶揄ってくるものとばっかり思っていた。


 うむ。いつものノリならそうくるはずだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ