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お祭り

 祭りだ。


 とはいえ、現代に受け継がれている祇園祭や葵祭のような大掛かりなものではない。

 不動堂村にある、ちいさな神社でおこなわれているちいさな祭り。


 夕食後、野村に誘われ、その祭りをのぞいてみることにする。

 正確には、野村と子どもたち、そして、相棒とである。


 屯所をでたところで、永倉と原田をみかけた。

 二人は酒を呑みにゆき、そのまま自宅に戻るという。


 二人とも、屯所のちかくに別宅があり、そこで奥さんと住んでいる。


「先生たちも一緒にゆきましょう。ねぇ、いいでしょう?」


 玉置がねだる。


 永倉も原田も、ほかの隊士たち同様、子どもらに寛容である。

 しかも、ずいぶんと気前がいいらしい。


 つまり、子どもらにしてみれば、祭りで愉しむには一人でもスポンサーがおおいほうがいいというわけである。


 現実的でちゃっかりしている。妙に感心してしまう。


 まぁ幹部である二人のほうが、おれよりよほど給金はいい。

 子どもらが、それをあてにするのは当然であろう。


「そうだな・・・。酒はいつでも呑めるが、祭りはそうしょっちゅうあるもんじゃなし・・・。よしっ、ゆくか」


 永倉がいうと、子どもらは大喜びである。


 そして、連れだって祭りへ向かう。


 とんとんと石段を上がると、鳥居がある。そこからが神域。


 たくさんの的屋がでており、驚いてしまう。


 もっとも、飴玉や輪投げ、金魚すくい、お面売り、そういったものばかりで、イカ焼きやリンゴ飴、射的のようなものはない。


 もといた場所でみかけた的屋が、ここにもある。

 懐かしい?いや、奇妙な感じである。


 店をやっているのも、それっぽい者ばかり。それらを取り仕切っているのも、それっぽい者である。


 それもまた、いまも未来さきもかわらないらしい。


 子どもらの興奮はマックスである。

 あっちの店、こっちの店とみてまわっている。


 おれたちもまた、店をひやかしつつ愉しむ。

 

 けっこうな人でである。

 老若男女、それぞれが祭りを愉しんでいる。

 もといた場所では、夏場は浴衣が定番だが、ここではみな着物姿。

 当たり前のことではあるが。


 おれたちは、着流しに得物を帯びている。


 ぶらぶらとあるきながら、不意に昔の感覚が頭をもたげる。


 こういう人のおおいところにあらわれるのは、この時代でもおなじらしい。

 左脚許にいる相棒も、それに気がついている。


「いかがいたした?」


 原田が、おれと相棒の脚が止まったのに気がつき、きいてくる。

 まえをゆく永倉も、振り返る。


 野村は、子どもらを追いかけるのに忙しい。


「ほら、あれをみてください」


 ある男に視線を向ける。相棒も、その男の動きを追っている。


 犬は、あまり視力はよくない。人間ひとでいうところの、0.2か0.3程度しかない。が、動くものには敏感である。つまり、動体視力が抜群である。

 そして、おれもまた、それは他人ひとよりすぐれている。


「ずいぶんとどん臭い野郎だな」


 原田は自分でそういってから、はたと気がつく。


 その男は、周囲の人にぶつかっては謝っている。


「掏摸か・・・」

 永倉の呟き。


「ええ、ずいぶんと欲張りなようです。っていうか、まだ慣れていないようですね」


 そのお粗末な仕事ぶりは、かえって清々しい。


「先生方、ご協力いただけますか?」


 永倉と原田にもちかける。


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