相棒 副長 刀 関羽 セクシーガール そして、八郎
「おお、よかった。まだやってくれていたか?」
気がつけば、すっかり暗くなっている。他出していた局長や副長、島田や野村がやってきた。そのときはじめて、だいぶんと時間が経っていることに気がついた。
それほど、双子の飴細工づくりに夢中になっていたというわけだ。
ニコニコ顔の局長のはずんだ声に、こちらまで笑みを浮かべてしまう。
みると、局長や副長だけではない。金子もいる。隊士のほとんどがここにいるので、金子が連れてきてくれたのだろう。
「すばらしい」
局長は、市村と田村に金魚と雉をみせられ、子どものように瞳を輝かせている。
「お好きなものを、おつくりします」
「ならば、関羽はどうかな?」
俊春に提案され、すぐにリクエストする局長。
大好きな「三国志演義」の関羽をリクエストするあたり、さすが局長といったところか。
それにしても、現代でこそ、漫画やアニメでその容貌をイメージできるが、この時代、草双紙などからどれだけイメージできるのだろう。
「承知いたしました」
そして、にっこり笑って快諾する俊春。すぐに、つくりはじめる。
その間に、俊冬が副長をさりげなくはなれたところへ連れてゆき、さきほどの間者の件を報告する。
こちらからみていても、副長の表情が、驚愕から苦笑へ、最終的には満足気なものへと変化してゆくのがわかる。
副長は、双子の対応に信を置いている。まぁ、「でこちんの助」と「でこぴん野郎」のくだりは別にして、生かしてかえしたというところは、それが妥当だと判断しているにちがいない。
しかも、手土産までもたせて・・・。
宝玉っぽいものを護る狼と龍の飴細工をみ、有栖川宮東征大総督府の補佐として下向している大村は、どう考え、どうかんじるであろう。
「副長は、なにがよろしいでしょうか。失礼いたしました。内藤副隊長、でしたな」
「ああ?内藤?自身でも忘れちまってるし、いまではすっかり副長に戻っちまってる。かまわねぇよ、副長で」
こちらへ戻ってきつつ、俊冬の言葉に副長が苦笑している。
そうだった。おれも、副長って呼んでしまっている。副長は、副長だ。内藤副隊長ってガラじゃない。
「そうだな。やはり、おれであろう?」
「承知いたしました。ならば、わたしが」
さすがは、ナルシスト。自分自身をモデルに飴細工をつくってくれ、なんて、フツーこっぱずかしくていえたもんじゃない。
副長なら、なにか商売をはじめたりマンションでもおっ建てたら、なんの迷いも抵抗もなく「土方歳三」と屋号やマンション名をつけるにちがいない。
「おおっ!これはすごい。これぞ関羽。いまにも動きだしそうだ」
うしろで、局長の歓喜の叫びと人々のどよめきがおこった。
局長だけではない。隊士や子どもたち、村人や金子も、飴細工の関羽雲長をみている。
たしかにすごい。ゲームソフトにでてくるような、青龍刀をふりかざした関羽である。フィギュアといってもいい。あの立派な髭まで再現されている。あの時代、ともに劉備のもとで戦い、みつめてきたように、飴細工の関羽はいきいきとしている。
うーむ。異世界転生というよりかは、俊春の転生前はあの時代の武将だったのかも。
「おおっ!こいつぁすげぇ。かっこいいじゃねぇか」
そして、この時代に生きる者のフィギュアができあがった。
俊冬から手渡され、自分を模した飴細工をみ、恥ずかしげもなく「かっこいい」を連発する副長。
「すごい。似ている」
斎藤も称讃している。そこは、かっこいいところではなく、似ているを強調するところがビミョーであるが。
そのあと、双子はつくりつづけ、みな、大喜びしていた。
斎藤には「鬼神丸」のフィギュアを、島田には単純に飴の棒を大量につくり、そして、野村には・・・。
俊冬がせっせとつくるその横で、野村はわくわくしながらみつめている。
かれのリクエストは、「セクシー・ガール」。さすがは、現代っ子にしてバイリンガルな野村である。そして、それにさして疑問の一つもかえさずつくりはじめる俊冬。
「おおおおっ!」
その出来栄えに、興奮状態の男たち。厳密には、成人男子たち。
すでに陽は暮れ、だれかが篝火を準備してくれたらしい。
その篝火の光を吸収し、飴細工がきらきらしている。
「ジーザス。セクシー・ダイナマイト・バディ!」
ちょっ、野村・・・。
もしかして、現代からやってきたのが野村で、おれは幕末で生まれ育ったんじゃないのか?
マジで一瞬、錯覚してしまった。
俊冬の掌から野村へ。
「わー、真っ裸女子」
市村と田村が、なにげに現代っ子っぽく飴細工を表現する。
たしかに、ナイスバディ、豊満な真っ裸の女性が・・・。
女たらしもそうでない者も、われもわれもとみたがる。村の女性陣が、それを遠巻きにみながらひそひそ話をしている。
きっと、「男はもう」と苦言をていしているのであろう。
そして、やっとおれの番に・・・。
「なんで、八郎さんなんです?」
伊庭八郎のフィギュアである。どうせなら、腕や脚の関節が稼働してくれたらいいのに・・・。
俊春から手渡され、ビミョーな気分になる。
でも、これは保存版だ。あ、いや、たとえこれが犬であろうと猫であろうと、きれいな飴細工である。すぐに舐めてしまうのは、もったいなさすぎるではないか?そういう意味での保存版であることは、いうまでもない。
もっとも、それはみなおなじである。その日は、大切にもってかえったのはいうまでもない。
ちなみに、安富は馬であった。当然のことながら。