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さらば 永倉と原田

「それから、おまえらのかえりがおそすぎるってんで、一緒にいっちまったんじゃねぇかって大騒ぎするからよ」


 そして、斎藤と俊冬と俊春と相棒へ視線を向ける。


「ちょっ・・・、副長、忘れてらっしゃいませんか?」


 体をくねらせ、掌をふりふり、存在感をアピールする。



「キモイやつだな、主計」


 現代っ子野村が、ソッコーでディスってくる。


「ああ・・・」


 いたのか、おまえ?的な副長の態度。


「さあっ、はやいとこ挨拶しやがれ」


 それから、子どもらをせかす。


 わかってるんですよ、副長。子どもらをだしにしてるってことくらい。


 永倉と原田とともに、おれたちまでいってしまうのではという不安がよぎったのであろうか?



「永倉先生、原田先生。また会えますよね」

「先生、またおごってください」


 市村は永倉に、田村は原田に、それぞれ抱きつく。 

 子どもらは、子どもらなりに気をつかっているらしい。しめっぽくならぬよう、わざとあかるくすっとぼけた要求をつきつけている。


「ああ、ああ。かならずな。だが、金子は土方さんと主計もちだ。寿司でもふわふわ卵でも、みなで盛大に喰いにゆこう」

「あるいは、双子先生の握る寿司でもいいし、猟で仕留めた熊や猪の鍋でもな。みなで喰えば、なんでもうまい」


 永倉、原田・・・。みなで、というところが泣かせてくれる。また、涙が浮かんでしまう。


 市村と田村は、抱きついたままぐずっていたが、それぞれぎゅっと抱きしめられ、ようやくはなれる。


「あー、土方さん・・・」

「断る。拳を打ち合わせるのか握手か、せめてハグにしてくれ」


 原田が視線を合わせ、口を開こうとした途端、副長はぴしゃりとさえぎる。


「このあとすぐ、おれの眼前でおまえが斬り殺されようと射殺されようと、おれはおまえと接吻なぞせぬ」


 拒否りまくる副長。


「だったら、だれとだったらする?」


 原田に問われ、しばしだまりこむ副長。


 だれとだったら、キスしてもいいんだろう・・・。


 シリアスなシーンのはずなのに、そんな下世話なことを考えこんでしまう。


「だれでもいいじゃねぇか。かような問題じゃないんだよ。ほらっ」


 副長は、両腕をひろげる。


 んん?フツーだったら、そこは「野郎とってところでいやなんだよ」とか、「女子おなごなら兎も角」などと返すはず。それをなにゆえ、「だれでもいいじゃねぇか」と?ということは、キスしてもいい野郎がいるというわけか・・・。


「ちぇっ・・・。気になる別れ方だな」


 原田はぶつくさ文句をいいつつも、副長とハグする。


 いや、原田よ。そもそも、ずれまくっていないか?


「くそっ!左之、てめぇ、はなしやがれ」


 原田の胸で、じたばたともがく副長。


 うーむ。イケメン同士のハグというのは、どうもBLチックにみえてしまう。


「お、わるいわるい」


 ぜんぜん悪く思っていない原田の謝罪。おつぎは、永倉が副長のまえに立つ。


 そのマジな表情かおに、さしもの副長もどうでてくるか考えあぐねているらしい。


「土方さん。みなでまた、剣術の試合をする約束をした」

「あ、ああ。そりゃぁいいな」

「総司や平助も含めてな。ああ、八郎を忘れてた。なぁ、主計?」

「え?それは、願っても・・・。い、いえ、そんなことないですよ」


 突然ふられ、つい本音が。いいや、同調しないといけない空気だからしたまでである。


「悪いが、あんたは抜きだ、土方さん。だが、審判役に呼んでやってもいい」

「おいおい、新八・・・。おれは、最強の剣士だぞ」


 苦笑する副長。おたがい、自然な動作で握手をし、それから拳を打ち合わせる。


 そのあと、永倉とは握手とフィスト・バンプを、原田とは熱烈なハグを、それぞれやって別れを惜しんだ。



 二人の背がみえなくなるまで、見送った。


 新撰組の二大組長の背は、偉大で堂々としている。だが、寂しげであった。



 双子が手配してくれた五兵衛新田の金子邸に、うつった。じょじょに仲間たちも戻ってき、その数を増やしてゆく。


 移って一日、二日経った時分ころ、客人がやってきた、


 名は、松濤権之丞まつなみごんのじょう。あの勝海舟の手下てかの一人である。


 外国奉行で外交官的な役を務め、フランスに留学をしてからは通辞、つまり通訳もしているはず。



 背はそんなに高くないが、けっこうなイケメンである。鼻筋の通ったその相貌かおは、フランスでパリジェンヌにもてたかもしれない。


 この二日前、勝と西郷の会談が、田町にある薩摩屋敷でおこなわれた。


 そのことを、おれたちはすでにしっている。その結果も含めて。それは、おれの未来の知識だけではない。双子が、リアルにもたらしたのである。


 江戸の町は、助かった。敵にも味方にも、焼き払われずにすんだのである。もっとも、上野などでの戦いはこの後におこる。それでも、全土が焼失するわけではない。松濤は、江戸城明け渡しまでに、幕府関係者がおとなしくしておくよう見張り、説得する役目をおおせつかっている。


 気の毒な話ではあるが、かれは今月のうちにこの役目のために死ぬ。


 それは兎も角、わざわざここにやってきた理由わけは、推測したまんまである。


「江戸城明け渡しが無事にすむまで、そこでじっとしておれ」


 つまり、そういいたいのである。



 局長は、笑って松濤をあしらう。いや、厳密には勝の要望をうまくかわす。


 松濤は去った。が、その翌日には、またちがう男がやってきた。吉沢大助よしざわだいすけという男である。


 松濤より、心持ち背が高く、こっちがひくほど傲慢である。


 副長が、「鬼の副長」の眉間に皺をよせるあのスタイルで、あきらか「とっととうせやがれ。馬鹿野郎っ!」というオーラ感満載で、かれはさっさと追い返された。

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