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No kidding!

「斎藤、おまえは土方さんに気に入られている。おまえが土方さんを説得し、近藤さんを助けてもらってくれ」

「いくらなんでも・・・。かような役目、わたしには重すぎます」


 斎藤は助けを求めるように、双子とおれをみた。


 もともとかれは、口が達者なわけではない。あの副長を説得するなど、あらゆる神のご加護を受けても、斎藤には無理っぽい。


「斎藤先生、こればかりは・・・。おれたちにも無理です」


 俊冬なら・・・。が、口が達者であっても、斎藤ほどの信頼感というか、気を許せるというか、そういうものが足りないであろう。


「そうだな、主計。仕方ない。新八さん、左之さん。わたしも、できるだけ努力はいたします。副長も、なにかしらの考えがあるはずですし」


 斎藤のいつものさわやかな笑みも、いまはなりをひそめている。


「すまぬな。なにせ、おれたちはいなくなるから・・・。ところで、土方さんのことをきいていいか?」


 永倉・・・。

 なんでそこ、きいてくるかなぁ?


「副長のなにをです?ああ、女性関係のことですか?」

「おいおい、主計。土方さんの女癖の悪さをきいたって、おれたちにはなんの価値もない・・・」

「副長も?副長も死ぬのか?」


 永倉をさえぎる斎藤の叫び。

 かれは、叫んでしまってから慌てて自分の口を掌でおおう。


「おいおい・・・。一番くたばらなさそうな土方さんが、死ぬ?」

「これも左之とおなじくらい、信じられぬ話しだな」


 なにゆえか、副長の死に関しては茶化す永倉と原田。


「副長が局長の跡を継ぎ、局長として転戦いたします。会津で斎藤先生と手下てかの隊士二十名ほどが残ります。ちなみに、斎藤先生や手下てかたちは、敵軍と戦って全滅と思われていました。が、じつは生き残っていたというわけです。そして副長は、残りの隊士をひきいて榎本艦長や大鳥さんとともに蝦夷へ渡ります。最終的にはそこで・・・。その直後に、幕府軍は敗戦いたします」


 いっきに語ってしまう。


「ただ、遺体がみつかっていないのです。ゆえに、蝦夷からロシアに渡ったのではないのか、という説があります。もっとも、ほぼ戦死で間違いないでしょう」


 まるで、映画や小説のストーリーのネタバレである。


「なにゆえか、近藤さんのときとはちがって、驚きもなければ悔しさとか悲しみってのがないんだが」

「おれも。実感がないっつーか。嘘じゃないんだろうが、嘘っぽいつーか」

「わたしもだ。わたしが驚いたのは、「うっそだー」という意味での驚き。副長が死ぬなんてこと、神仏がいなくなるのと同様、ありえぬ」


 組長たちの見解。いや、まさかの断言。しかも、斎藤の「うっそだー」は、かれらのきっぱりとした断言よりも衝撃的である。


 なんじゃそりゃ?


 ツッコミたくなるのは当然のこと。 


「土方さんも、生きのびるさ。あらかた、その準備もちゃんとやってたろ?」


 原田の推測に、ふと思いだす。


「そういえば、そのまえに愛刀と写真を、鉄に託して実家へと送りだします」

「ほらみろ。それだよ、それ。こすい土方さんらしい」

「ああ、左之の申すとおり。土方さんのだよ。まぁ、鉄を離脱させる恰好のめいでもあったんだろうが」

「新八さん、一石二鳥ってやつですね。銀は?」

「斎藤先生、銀も大丈夫。生き残ります。さきにもお話した通り、子どもたちのなかでは、良三だけが死ぬはずでした」


 そのため、沖田や藤堂と一緒に、丹波にいかせたのである。


「まっ、それをきいて、土方さんのことは安心した」

「いや、ちょっとまってください。なにゆえ、そこまで確信できるのです?」


 原田の結論どころか、三人ともすっかり安心している。これはもう、長年、一緒にやってきているからわかってるんだよ、のレベルをこえている。


「土方さんだからだ」

「土方さんだからに決まってるだろう」

「副長ゆえ」


 永倉、原田、斎藤の答えがかぶる。


 もう、いうべき言葉もない。


「それで、主計。おまえは?」

「おれですか?おれも生き残りますよ」


 永倉に問われて、答える。


「そりゃ、おかしいだろう?」

「おまえが、生き残る?」

「それは・・・。その説はいただけぬ」

「ちょっ、なにゆえ、おれは生きてちゃおかしいんです?」


 それまで、ひっそりとなりゆきをみまもっていた双子が、ぷっとふきだした。

 組長たちも笑いだす。もちろん、おれも。


「俊冬、なにゆえ髪を伸ばしている?」


 永倉が、笑いをおさめてからマジな表情かおで尋ねた。俊冬は、すこしはなれた木のまえで弟と立っている。


 そういえば、町人髷からみじかく刈り揃えていたのに、いまはそのまま伸ばしつづけているようである。俊春のほうは、おれとおなじく丸刈りが好きなのか、昔の高校球児みたいにしている。

 あ、もしかすると、この丸刈りが俊春を双子の兄より若くみせてるいのかもしれない。


「髪?わたしは弟とちがい、頭のなかより外の形が悪いのです」


 平然と答える俊冬。


「髪が伸びてきたら、どことなく副長に似ているな」

「まさか、ポスト土方を狙っているんじゃないでしょうね?」


 斎藤にのっかり、からかってみた。


「ポスト?その意味はわかりかねるが、わたしが副長を真似る必要があるか?わたしはわたしで、そこそこの見栄えだと思っておるのだが?イケメンの主計君」


 くそっ!やり返された。


「おいっ!」


 あっ、と思う間もなく、永倉が双子までの間を詰め、俊冬の着物の袷をつかんでいた。


「おいおい新八、またか?」


 それにいちはやく原田が気がついていた。すでに二人にちかづいている。


「殴るのはなし、だ」

「わかってる」


 原田が永倉の相貌を(かお)をのぞきこんで苦笑した。だが、永倉は難しい表情かおのまま俊冬を開放しようとしない。


 着物の袷を握りしめる永倉の掌を、おおきな掌でさする原田。


「俊春」


 そして、もう片方の掌で、うつむいている俊春の注意をひく。


「おまえら、なにをたくらんでいる?新八が殴るのはいただけないが、気持ちはわかる。俊冬、それから俊春。おまえらこそ、新撰組おれたちからはなれ、丹波にいけ」


 原田は、なにをいいだすんだ・・・。その意図がよめず、斎藤と相貌かおをみあわせてしまった。


「おまえら、頼むから自身のことも大切にしてくれ。こんだけ無茶なことやってもらって、明日の戦でも負担をかけちまうってことは、おれたちも重々承知しているつもりだ。精神こころも体躯もすり減らし、生命いのちをちぢめてるってことも、身にしみてわかってる」


 力をこめたまま、語る永倉。その声は、涙声になっている。


「たしかに、ながい付き合いじゃない。だが、こういうのはときの問題ではなかろう?どれだけながい付き合いであろうが、精神こころ精神こころが通いあい、わかりあっていなければ、しょせんは他人どうし。仲間とはいえぬ。たとえみじかかろうが、それが通いあい、わかりあっていれば、仲間だ。否、兄弟みたいなものだ。おれと新八は、遠くはなれちまう。主計の話だと、斎藤もはなれちまうことになる。しかも、近藤さんは・・・。昔からの仲間はいなくなり、土方さんは一人になっちまう。おまえらや島田や勘吾に、託すしかない。託すしかないのもわかっている。だが、それと身代わりとは、また話しが異なるだろうが?」


 原田の言葉で、ようやく二人の怒りの要因が理解できた。


 影武者・・・。俊冬は、副長の影武者になるつもりで、髪を伸ばしていると?


 混乱してしまう。そもそも、双子に副長の最期を伝えたことがあっただろうか?もしかすると、話の流れで蝦夷で戦死っぽいことを告げたかも・・・。が、はっきりとは覚えていない。


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