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告げられぬ未来

「そっちのほうが、誠だろうよ。そっちの説のほうがな。馬賊か・・・。ひいいっ。腹いてぇ」

「似合ってますよ、左之さん。馬賊でも山賊でも海賊でも、なんでも似合いそうだ」


 永倉と斎藤が、笑いながらいった。


「左之、いまのうちに馬になれとけ。将来のためによ」


 そして、副長。腹を抱えながら、アドバイスを送った。


「ああ、そうするわ」


 原田は、気を悪くする様子もない。一つ頷くと膝行してきておれの肩をたたき、それからまた膝行して俊春のまえへいった。


「主計。それから、俊春。気をもませちまったな。おまえらの忠告通りにするわ。丹波にゆき、ほとぼりが冷めるまであいつらとすごす。それからのことは・・・。そうだな。大陸にいくっていうのもありだな。そんときゃ、総司や平助、山崎と林を誘ってもいい」


 俊春にもわかるよう、口の形をおおきくして告げる原田。


 俊春は、うれしそうに頷いている。かれは、そっとみまもってくれている原田に、恩義を感じているのかもしれない。


「ああ。おまえだったら、大陸だろうが地の果てだろうが、図太く生きてゆける。ああ、かならずや生きてゆける」


 副長のつぶやき。

 原田は体ごと副長に向き直ると、にんまり笑った。


「ああ、かならずな。おれは馬鹿だが、生きる力ってのはそこいらの雑草よりも強い。だからこそ」


 いうなり、ズボンのボタンをはずすとシャツをまくり上げた。


「切腹でも死ななかった。「死に損ね左之助」の二つ名は、あんたの「鬼の副長」よりも強烈だろう?」


 原田が副長に拳をさしだし、二人でそれを打ち合わせた。


「原田先生は、永倉先生が一人でも大丈夫だと判断されたのでしょう。江戸で一人療養されている沖田先生のほうが、気がかりだったにちがいない」

「だろうな、主計。もしも新八に危険が迫っているのなら、おれはそこを去ることはなかったはず。まぁ宇八っちゃんは、要領がいい。やばそうな戦は、絶対に避ける。新八が猪突猛進しようが、ひきとめるはずだ。それもあって、江戸にいったのにちがいない」


 原田は、またしても後世の歴史評論家ぶった。


「ちっ、悪かったな、猪武者で。にしても、そう思わせたきっかけはなんだったんだろうな?それだったら、山崎宿でだっけか?そんなところまでゆくまえに、とっととひきかえしゃいいものを」


 永倉が、原田にふてくされてからいった。


 きっかけ・・・。


 おそらく、局長の斬首をきいたからであろう。それをきき、原田は沖田のことが気になったにちがいない。


 沖田は、心底局長を慕っているから・・・。


「さぁ・・・」


 としかいいようがない。いいたくない、というのが正直なところか。


「おいおい、主計。しらばっくれるなよ。おまえ、また表情かおにでているぞ。その表情かお、あきらかになにかしってるって表情かおじゃないか」


 永倉に、ソッコーツッコまれてしまった。


 逡巡してしまう。いまここで、このタイミングでいってしまっていいのか。いってしまえば、今後、どうなるのか。どのような影響を与えてしまうのか。


 正直、怖すぎて想像したくない。


 が、正直に告げて運命をかえることができれば、坂本と同様に奇跡がおこるのではいか、という期待もある。


 いわなかったことで、後悔するのではないのか。

 後日、真実をしった副長たちは、きっとあのときに問い詰めておけばよかった、と慚愧の念を抱くのではないか。


 いわなかったおれにたいして恨みを抱くのではない。話をきかなかった、あるいはききだせなかった自分にたいして、許せない気持ちになるのではないか。


「だったら教えてくれ、主計。わたしがどうなるのはいっこうにかまわぬ。なれど、ほかのだれかがどうかなるのだったら、できうるかぎり回避したい」


 斎藤の思い詰めた表情かおと声。

 思わず、口を開きそうになった。


「まて、主計。それをしっているのは?」

「副長・・・。すみません。なかなかいいだせず・・・。俊冬殿と俊春殿には、話しています」

「わかった。それは、この進軍に関係あるか?」

「いえ、もうすこし後のことです」

「ならば、告げるか告げないか、しばらく考えろ。おまえたちも、このことに関して、主計を問い詰めるようなことはするな」


 副長にいわれれば、組長たちも了承するよりほかない。


『他言は無用』、なんて注意はこの面子に必要ない。


 それでお開きになった。


 副長は、おれが話をすることがわかっている。


 うすうす勘付いている。だからこそ、それをきくのが怖くてさきのばししたのである。


 そして、組長たちも。かれらも、局長にまつわることではないのか、とおぼろげにわかっているのかもしれない。


 翌朝、なにごともなかったかのように、内藤新宿を出立した。


 向かうは、日野である。 


 

 みな、双子が手配した洋式の軍服を着、従軍している。それは、新撰組うちだけでなく弾左衛門の手下てかや十数名の博徒侠客たちも同様である。


 久吉が局長の騎馬「豊玉」の口取りをし、沢が副長の「宗匠」の口取りをしている。


 日野は、いわずとしれた局長たちの故郷。小者役である双子のしらせを受け、道におおくの人々が集まっている。その人のおおさに驚いてしまった。


 みな、局長や副長の出世を祝うため、それから、勇ましく出陣するのを励ますため、集まってきているのだ。


 道の両端に並び、口々に叫ぶ人々。それを、局長は涙ぐみながら掌をふってこたえている。


 まさしく、一世一代の晴れ姿。


 これが最初で最後であることが、残念でならない。

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