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ガンファイター

「刀をもてぬのであろう?ならば、おぬしらはどうやって敵に相対するのだ」


 斎藤の問いに、肩をすくめた。


「たいていは、戦わずしておわります。まれに肉弾戦、つまり、柔術で戦います。厳密にいえば、拳銃チャカ)は威嚇までがほとんどです。発射するまでに、相手に幾度も呼びかけなければなりません。相手がすぐに襲ってこない場合、人質をとっているとか立てこもっているとか、そういう場合は専門の交渉人が説得を試み、投降や武装解除を呼びかけます。それでも襲ってくる場合は、発射します。それも、威嚇射撃です。当人、もしくは一般市民が生命いのちの危険にさらされたとき、そのときになってはじめて相手に向けて発砲します。そのあとがまた、面倒なことになります。相手の生死、怪我の如何にかかわらず、正当であったかどうかなどが問われます。未来の同心や目明しは、現役時に拳銃チャカを撃つことはほとんどないのです」


 いっきに語った。実際には、そんなきれいごとで平和な世のなかが維持できているわけではない。世のなかには、闇の部分がたくさんある。日々の職務に追われる警察従事者たちのおおくが、そんな闇の部分をしらない。もちろん、ほとんどの一般市民もである。


将来さきのことは、よーっくわかった。将来さきは堅苦しくって面倒臭ぇが、それはそれでいいって思う」


 副長もまた、肩をすくめた。


「だが、いまのだと、威嚇するのに構えるところまではやってたんだろう?」


 副長には、まだつづきがあった。しかも、ツッコまれたくないところをツッコんできた。


「いやー、すっかり剣術のほうになれちゃってますから」


 頭をかきながら、ムダにあかるくふるまった。


「それは、剣術が人一倍達者な者が申すべき言ではなかろうか?」


 斎藤のさわやかな笑みが、燭台の灯よりも輝いている。


「わかりましたよ。素直に認めます。久しぶりすぎて、へっぴり腰になってしまいま・し・た。これでいいでしょう?まったくもう。あ、いっておきますが、的に当てるのはそこそこですよ」


 そう。射撃訓練は、上位であった。

 久しぶりであっても、2、3発撃てば、カンを取り戻せるはず。


「ほう・・・。ならば後日、勝負といこう」

「え?実弾で?」


 俊冬が、挑戦状をたたきつけてくきた。


 ちっ・・・。


 弾丸たまがもったいなくてできるはずないって思っていたのに、無茶ぶりしてきた。


「一発勝負、とゆこう。なんなら、亜米利加メリケン式でもよいぞ」

「ええっ!ガンファイターみたいな?おたがいに背中合わせで十数え、振りむいて撃つってやつ?」


 愕然としてしまった。大根の飾り撃ちできる双子を相手にガンファイトなどしたら、確実に死ぬ。それこそ、荒っぽい整形外科手術みたく、顔面を削られてしまう。


 いや、そうしたらイケメンになれるのか?


「馬鹿なことをかんがえるんじゃない」


 みんなしていっせいにツッコんできた。


 めっちゃ、ハモッてた。


「削るのにもかぎりがある」

「ちょっ、それ、どういう意味なんです、俊冬殿?」

「ふふんっ!つまり、どれだけ削ろうが擦ろうが、おれのようにはならねぇってこった」


 副長、そりゃそうでしょうよ。くやしいけど、「ブラッO・ジャック」に全財産を投げうって整形してもらっても、無理なんでしょう。


「では、主計。ガンファイトとやらを愉しみにしておるぞ」

「ちょちょちょちょっと、勝手に話をまとめないでくださいよ」

「すっかりおそくなってしまいましたな。副長、今宵はこれまでということで」

「そうだな、俊冬。つぎは、実際に撃ってみたいものだ」


 副長は、機嫌よく部屋からでていってしまった。


 ううっ・・・。ちかいうちに、B級西部劇の雑魚キャラみたいに眉間に風穴を開けられるかも・・・。



「そういや、おまえらは帯刀にこだわらぬのだな。せっかくの業物だってのに」


 永倉が布団を敷きながら、って、それがけっこう笑える図だなって思うけど・・・。兎に角、双子に尋ねた。

 いっぽうで、斎藤もせっせと押し入れからかいまき布団を運んでいる。


 このかいまき布団、めっちゃあったかい。西は重ーい布団。東はかいまき布団。だれかのブログにのっていたかと思うが、マジだったんだ。江戸こっちへきてから、驚いてしまった。


「刀、帯びなくて不安じゃないか?」


 永倉は、俊春の注意をひいてからもう一度ゆっくりいいなおした。


「おれとおなじさ。刀など、なくたってどうってこたぁない。とくに、鞘はいらんだろう」

「左之、なにいってやがる。それは、おまえだけだろうが。おまえは、槍遣い。なくたっていいかもしれぬが、こいつらは剣士だ」

「いえ、永倉先生。われらは、先生方のような誠の剣士ではござりませぬゆえ。武士に扮するときのみ、帯びる程度でございます。ふだんは、包丁やまな板などといっしょにしております」


 俊冬は、やわらかい笑みを浮かべた。


 かれは「関の孫六」を、俊春は「村正」を所持しているのである。



「あの・・・。すこしいいですか?」


 刀好きの斎藤が参戦してくるまえに、きりだしておかねば。


 おやすみタイムに入りつつある組長たちに、おずおずと尋ねた。


「ならぬ」


 ソッコー返してきた斎藤。


「ならぬって・・・。なにゆえ、そんな意地悪をおっしゃるんです、斎藤先生?」

「俊冬。はい、どうぞ」

「おもしろいからだ」


 斎藤、俊冬のコンビネーション。レアなコンビ。けっこうイケてるじゃないか。って、そんな場合じゃない。


「まったく・・・。みな、主計をいじるのはよせ。真剣な話なのであろう?座れ」


 永倉が、いってくれた。


「永倉先生、よみましたね?」

「あ?主計、申したであろう?おぬし、表情かおにですぎだ。よむまでもない。かように真剣な表情かおをしておったら、みただけでそうとしれる」


 くそっ!まさしく「顔は心の鏡」じゃないか。


 だが、双子もこのときばかりはこちらをよんだらしい。なにもいわず、すすめられるまま部屋のすみで胡坐をかいた。


 部屋が狭いので、声を潜めれば密談にはちょうどいいかもしれない。




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