拳銃講座
「それはそうと、拳銃のつかい方と手入れの方法をお伝えしたく」
俊冬の、お客様サポートのごとき提案。
したがって、会議はこれで終了である。
局長や島田らは、それぞれ夜のひとときをすごすであろう。
拳銃を所持している副長と原田とおれはもちろん、所持している者になにかあった場合にということで、永倉と斎藤も拳銃講座に参加することになった。
組長たちの部屋へと移動した。
局長たちの部屋よりかはせまい。
「主計。おぬしは拳銃の構造、わかっておるな?」
部屋の中心部に、並び置かれた五丁の拳銃。おれたちは、その周囲にぐるっと並んでのぞきこんだ。
俊冬に尋ねられ、無言で頷いた。
「得物がかわろうと、おなじでございます。刀や槍のことをしらねば、それを御すことはできませぬ」
俊冬は、そうきりだした。みなが頷くのを確認すると、銃についての基礎知識を語る。
構造だけでなく、歴史的背景や変遷まで。銃だけでなく、弾丸もについても言及した。
真摯に語る俊冬の右頬にある傷をみながら、その知識のおおさに驚きを禁じえない。もちろん、同様の知識が俊春にもあるはず。
異世界転生で、銃をつくっていたか武器商人でもやっていたのであろう。
「では、つぎに手入れについてです。刀や槍同様、拳銃も手入れが必要でございます」
銃は手入れをおこたるとうまく動作しなかったり、事故につながったりする。もっとも、それはかならずというわけではない。現代の銃のなかには、多少手入れをせずともつかえるものはある。
汚れには、いろいろある。どの汚れも、内部にひろがって固着したりひび割れを生じさせたりする。それによって動作しなかったり、暴発したり発射がとまらない、などなど不具合や事故をひき起こす。
みな、真剣にきいている。
「分解します」
俊冬は自分のを掌にとると、てぎわよく分解した。
シリンダ部分をおさえながら、エキストラクターロッドをまわして取り外した。どこから手に入れたのか、ピンセットをつかってねじをとり外し、個々のカートを外した。シリンダーをばらばらにしたのち、インナーバレル解体に入る。マズルの下にあるイモネジを、これも器用にピンセットで外した。マズルパーツを引き抜き、チャンバーについているストッパーリングを外した。
グリップのところまでになると、ねじがごつすぎてピンセットでは無理なので、分解はここまで。
みな、この一連の流れるような作業を感心してみている。
いや、マジで手際よすぎである。
警察学校時代に習った程度で、正直、手入れは数回しかやったことがなかった。それも、刑事長に教えてもらいながら、である。
警察ではスワットといった対テロ部隊くらいでないと、そうそう手入れを頻繁にすることはないだろう。これが自衛隊となると、手入れをするんだろうけど。
さすがは俊冬だ。異世界転生で、スナイパーもやっていただけはある。
清掃がおわると、つぎはもとに戻してゆく。それもまた、手際がいい。アメリカの軍隊ものの映画などで、数分で分解して組み立てをおこなうってシーンがあるが、それをも超越している。
で、おれたちの番である。双子がみまもるなか、副長、原田、おれ。それから、永倉、斎藤と順番に試した。
刀も分解するのはたいがいムズイが、銃はなれていないだけにムズすぎる。それでも、全員が二回試し、なんとか合格点をもらえた。
つぎのステップは、構え方。
ハンドガンは、両手でグリップすることで安定し、命中精度が高まる。
右利きの場合は最初に右手でグリップし、右親指を上げて左手が入るスペースを確保する。左手の掌低をグリップに密着させ、右手と同様に左手も可能なかぎりフレームの上の方をグリップする。左手の人差し指は、トリガーガードの下に押し付けられることになる。
『ダーテOーハリー』で、「クリント・Oーストウッド」が右手首を左手で握って固定している。「リスト・ロック」というスタイルらしいが、現実味のないスタイルのようだ。よく映画やドラマでみることのできる、「ティー・カッピング」というスタイルもある。これは、利き手をもう一方の手が下側からつかんでサポートするスタイルである。昔、アメリカの警察が採用していたスタイルである。
みな、初心者のため、最初の基本グリップを教えてもらった。
姿勢は軽く前傾し、体重は軽くまえへかける。体は対象に向かって正面を向く。腰は両脚の間で安定させ、右利きの場合は右脚を半歩うしろに置いて45度外側へひらく。その際、左脚は正面に向ける。膝は軽く曲げ、両脚は肩幅にひらける。
肘もまた、軽く曲げる。握力は、右利きの場合、右手が3、左手が7の割合である。
これが、基本の構えである。
双子メイドのホルスターを装着し、まずは双子がはや抜きからの構えをみせてくれる。
めっちゃかっこいい。
障子をあけ、宿のちいさな庭にある椿の花に向けて構えるそのガンスタイルは、ハリウッド映画にでてくるアクションスターよりもクールである。
これが着物で尻端折り姿でなく、軍服姿であったらと残念でならない。
射程内からはずれた位置にお座りしている相棒も、ほれぼれと眺めている。
「まぁまぁだな」
とは、副長。
なにを基準にまぁまぁと判断しいるのかは、謎である。
まずは、副長と原田。
この構えは、「宝蔵院流」の構えにどことなく似ているらしい。ゆえに、原田はなんなくクリア。副長も、剣術の正眼は控えめにいってもイタいが、脚をひらくこのスタイルはまだやりやすいらしい。
しばらくすると、なんとかさまになった。
「かっこいいだろうが、ええ?」
さすがは、ナルシスト土方。だれもなにも批評しないため、みずからで結論をくだした。
「すまん、土方さん。じゃなかった、内藤さん。瞳に、ごみが入っちまった」
「おれは眠くって瞳、こすってた」
永倉に原田が、ソッコー応じた。斎藤は、ふっと冷ややかな笑みを浮かべている。
「ちっ!おまえら、超かっこいい手本をちゃんとみときやがれ」
思わずふいてしまい、副長ににらまれてしまった。
そして、永倉と斎藤の番である。剣とは構え方が異なるとはいえ、さすがである。双子に一つ二つ注意されただけで、こちらもすぐにクールな構えになった。
最後はおれ。昔取った杵柄で、早抜きからの構えでキメてみた。
キマッた。やはり、体は忘れてはいない。これならおれもハリウッド、いや、そこまでいかずとも、日本のどこかの芸能事務所からお呼びがかかったりして・・・。
内心、ほくそ笑んだ。
実弾を発射したら、椿の花が弾け飛び、花弁がゆっくりゆっくりスローモーションで舞い散るはず。
庭でお座りしている相棒と、視線があった。
ふんっ。いつものごとく、鼻を鳴らす相棒。
「へっぴり腰すぎて、超絶ダサッと申しておる。ほれ、このとおり」
右耳にささやかれたと同時に、背後から膝カックンされてしまい、そのままくず折れてしまった。
「な、なにをするんです、俊春殿?」
思わずうしろを向き、口の形をおおきくしてクレームを入れた。
「おぬし、兼定がへっぴり腰と笑っておるぞ。剣術でかようにへっぴり腰になるか?拳銃のかまえも、丹田にしっかり力を入れるものである。誠に撃っておったのか?」
俊春は、誠に容赦ない。俊冬も、にやにやと悪意ある笑みを浮かべている。ついでにいうと、それ以外の人たちもだ。
「ないんですよ。射撃訓練はありますけど。そもそも、人間に向けて発砲する、なんてことは数回しかなかったんです」
カミングアウトした。嘘やごまかしは、男らしくないと思いつつ。
沈黙が、重苦しいほどだ。