矜持の高い男は・・・
「このように、取り付けます」
俊冬は、自分メイドのホルスターの装着方法を指南する。
ほうほうといいつつ、副長も原田もいわれるままに腰に装着する。
「いかがいたした、主計?われらが夜なべし、一針一針心をこめ、無事を祈りつつつくりあげたものに、なにか不満でもあると申すのか?」
「俊冬殿、それから俊春殿。そのことについては、心から感謝しています。不満などあるわけがないじゃないですか。大切につかわせていただきます」
「ならば、はやくつけてみせよ」
俊冬は、にっこり笑う。その隣で、俊春も同様の笑みを浮かべている。
ぞっとするほど悪意に満ち満ちている。
くそっ、わかってるくせに。
内心で歯ぎしりしつつ、てばやく装着する。
思いのほか、ぴったりしている。警察の支給品より、よほどつかい心地がよさそうである。
「それぞれの腰まわりにあわせておるゆえ」
「ええ?それぞれの腰まわりって?みただけでわかるんですか」
俊冬は、にんまり笑う。
なるほど。女性のスリーサイズも、ぱっと見でよみとれるってわけか。うらやま・・・。
「スリーサイズとはなんでしょうな、兄上?」
「相棒、そんなこと思ってないぞ」
俊春の疑問に、いつものように相棒の代弁かと勘違いしてしまった。
「主計、よほどたまっておるのだな。われら、女子の体躯を無遠慮にみるなどということはせぬ。みるとすれば、男だ」
なんてことだ。
俊冬、スリーサイズの意味をわかっているのか?
「助兵衛なおぬしのこと。言の葉の意味がわからずとも、容易に想像がつく」
「助兵衛って、おれのどこが助兵衛って・・・」
「まて、俊冬。男をみて、いったいなんの役にたつってんだ?」
おれにかぶせ、副長が俊冬に問う。刹那、双子がにんまり笑う。その視線が、大人たちのある一か所をめぐっているような気がする。
大人はみな、さりげなくアレを掌でおおっている。ってか、おれもだけど。
なんてこと・・・。これも、双子の特殊能力の一つってわけか・・・。
「脅しにつかえます。矜持の強き者ほど、たいていちいさいもの。うってつけの脅しの材料となります」
沈黙・・・。
江戸の朝って、こんなに静かなんだ。
雀のおしゃべりをききながら痛感する。
「なら、土方さんのも?」
「土方じゃねぇっ!内藤だっつってんだろうが、新八。ってか、そんな問題じゃねぇ。なにゆえ、おれのがちいせぇっていいやがる。難癖つけんじゃねぇよ」
副長の勢いに、子どもらは拳銃のカッコよさなどふきとんだらしい。
「副長のなにがちいさいのですか?」
泰助が、ひきまくっている大人に無邪気に問う。
「泰助は、ねんねだな。アレにきまってるだろう?」
「そうそう。副長のアレは、ちっちゃいんだって」
年長の市村や田村は、年上ぶる。大人ではけっしていえないことも、怖いものしらずのかれらである。堂々といってのける。
「みな、やめぬか。ふざけている場合ではなかろう」
おお、ついに局長が。
「で、わたしのはどうだ?わたしは、歳、否、内藤君ほど矜持はムダにたかくない。さぁっ、みてみよ。とっくりとみ、みなのまえで申すといい」
きょ、局長?パワハラでしょうか?それとも、脅しでしょうか?いやいや、そんだけ自信があるってことでしょうか?
副長と双子は、言葉に詰まっている。
そういえば、昨夜、斎藤が局長のはおおきいってことをいってたっけ・・・。
「おそれながら、局長の性質はやさしくまっすぐで謙虚。非の打ちどころがございません。子どもらがおりますゆえ、これ以上のことは申しませぬが」
さすがは俊冬。じつに如才がない。
暗にでかいっていいたいのか。
そして、満足げにうなづく局長。
双子の特殊能力騒ぎのお蔭で、ホルスター装着時の比較を免れたのはラッキーである。
だって、どうせまたおれだけ「ダサッ」って、いじられるにきまっているのだから。
それは兎も角、こんな調子で、そもそもの目的の掃除がおわったのは昼になろうかという時分であった。
弾左衛門は、関東一円で十万人以上の穢多非人を支配していたといわれている。その支配力はすさまじく、大名も顔負けの力があったという。
此度、かれは選りすぐって二百名を引き連れている。それだけでなく、軍資金も調達してくれている。かれらのうち、いったい何名が戦に参加することになるのか・・・。
博徒や侠客も、十数人参加している。例の双子の入社試験に合格した男たちである。
みじかい間であったが、仮の屯所である秋月邸に別れをつげた。
向かうは内藤新宿。さほど遠くはない。