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ロックオン

 仮の屯所である秋月邸での朝餉も、これが最後である。


 双子は、軍服からまた小者の姿になっている。当面、小者として活動するという。

 同時に、物見、間者としても動くらしい。


 ゆえに、新参者たちのまえでは、そのようにあつかえとのこと。

 小者あつかいするようにという内容と同時に、俊春の耳のこともさりげなく周知された。



 鯵のひらき、大根の葉の炒め物、芋の煮っころがし、大根のなます、わかめと豆腐の味噌汁、浅草海苔、香の物、玄米と白米の飯。


 今朝は、全員がそろって食す。


 よくぞお膳がたりたものである。ぎゅうぎゅう詰めではあるが、大広間に全員が集まった。


 上座に局長と副長。そのまえに左右にわかれ、三人の組長に島田や蟻通や中島、安富らが並ぶ。


 子どもたちはその横に。そのあとに隊士たちが並んで座している。



 まずは局長から、此度の出陣の内容について説明がある。


 みな、それをマジな表情かおできいている。


「此度の出陣にあわせ、わたしは大久保大和おおくぼやまと、副長は内藤隼人ないとうはやとと改名し、隊長、副隊長となる。心してくれ」


 局長につづき、副長から「新参者ともめることなかれ、いかなるささいなことでも報告するよう」と、注意があたえられる。


「本日は、内藤新宿に宿をとる。朝餉がおわりしだいおのおの準備をし、おわった者から秋月邸ここの掃除をはじめてくれ」

「承知」


 副長のめいに、全員が了承する。


 立つ鳥跡を濁さず、である。


 全員で「いただきます」と掌をあわせ、朝餉の開始。

「掌をあわせて、いただきます」と、小学校の給食のことを思いだしてしまう。


 人数が減ったとはいえ、全員で集まって食事をすると、TVで放映されていた「大家族」の食事シーンみたいである。


 すさまじい勢いで喰うわ喰うわ。大人も子どもも、どんだけぶりに食事にありつけて、これからまたいつになったら喰えるのかわからんっていうようなシチュエーションっぽい。


 子どもらも、パジャマパーティーでスイーツやホットチョコレートを堪能しまくったのに、一心不乱に喰っている。


 以前、双子がやってくるまえ、朝餉はテンションが低かった。朝稽古に参加したり隊務があったりとかでないかぎり、朝餉じたいどんよりした空気のなか、無理くりに胃に詰め込んでいた。


「泰助。魚、きらいだったのにな」


 泰助が、鯵のひらきを骨からきれいに身をとっている。魚嫌いの子が、うれしそうに魚を喰っている。


「双子先生がつくってくれるものは、なんでもうまいよね」


 いっちょまえに、大人の真似をして「うまい」、なんていっている。


 ふと庭へ視線をむけると、すでに朝食をお召し上がりになった相棒が、欠伸をかみ殺している。


「飯のおかわり、いる者は?」

「茶はどうだ?」

「味噌汁は?」


 隊士たちは周囲に声をかけつつ、茶碗やら椀やらをあつめ、双子のもとへとおかわりにゆく。


 はーっ、幸せ。


 ほどよい塩加減の鯵の身を口に運びつつ、視線を相棒から上座の方へと移す。


 永倉と原田と斎藤が、こちらをみている。視線があった。


 ま、まずい・・・。ロックオンされた。いくら距離が7~8mちかくあろうとも、手練れの組長たちには関係はない。


 おれたちの眼力めぢから合戦に、その間にいる隊士たちが気がついた。みな、もりもり喰いながら膳ごとうしろへひく。


 永倉が膳の上の皿やら椀をとり、ひっくり返したりしはじめる。


 全部喰い尽くしたけど、まだ喰い足りないアピールなのか?


 戦慄が駆け抜ける。野良犬や猿に出会ったときのように、刺激を与えぬようゆっくりとした動作で膳の上に箸を置き、いつでも逃げられるよう膳の両端に掌を添える。


「ちょちょちょ、なにゆえです?これだけ隊士がいるのに、なにゆえおれを狙うのです?ねぇ?そうですよね、みなさん?」


 本人たちにいったところで、きいてくれるわけもない。周囲の同情、もしくは賛同をえるしかない。


「なにを申しておる、主計?おぬしが一番下っ端なのだ。組長たちに捧げものをするのが、当然であろう」

「さようさよう。先達をないがしろにするでない」

「まったくもって・・・。喰っていただいて感謝こそすれ、非難するとはなんたること」


 同情が非難にかわって・・・。


「誠に愛されているな、主計よ。うらやましいかぎり」


 ショック大のおれのささくれだった心に、局長のノーテンキ、もとい、元気のでるお言葉が・・・。


「さてさて、やることはたくさんある。さっさと朝餉をすませようじゃないか」


 局長のありがたいお言葉を武器に、組長たちにあっかんべーをする。すると、なにげに現代っ子な永倉が、中指を立ててきた。


 野村につづき、永倉もいつでも現代に転生できる。


 そして、おれは無事、秋月邸ここでの最後の朝食をおえることができた。




 弾左衛門一行や入社試験・・・・でひっかけ問題をクリアして雇用された博徒や侠客たちが、ぞくぞくと集まってきている。



 進軍の準備といっていっても、お泊りセットもないのでゴロゴロひっぱるスーツケースに詰めるものがほとんどない。スーツケースどころか、エコバック一つない。風呂敷一枚あるだけだ。それも、島田がリサイクルしたという段だら模様の風呂敷である。


 いや、これはこれで、NETオークションに出品したら新撰組ファンが落としてくれるかも、だが。


 ゆえに、ありがたくつかわせてもらうことにする。準備自体は、瞬殺で終了。自分でもびっくりである。



 拳銃嚢。つまり、ホルスターがもうできあがったらしい。


 朝餉の準備に、ホルスターづくり・・・。


 双子は、眠っていないにちがいない。っていうか、いっつもどこで眠っているのかとか、ちゃんと睡眠をとっているのかとか、いらぬ心配をしてしまう。


 それは兎も角、ホルスターは、ヒップホルスターのバックサイド式である。現代でも、おおくの警官、刑事、軍人に多用されているスタイルだ。


 相棒の首輪もだが、こまかな金具もよくそろえることができたなと驚いてしまう。もちろん、クオリティーの高さについてもである。


 さっそく、五人で着用することに。


 局長をはじめ、好奇心旺盛な外野が取り囲んでいる。


 掃除を開始しているので、庭で試着をおこなう。


 そして、そこではたと気がついた。


 副長、原田、双子、おれ・・・。


 こ、この面子は・・・。

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