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女性観

「で、なにゆえだ?これだけできる男なのに、なにゆえ、女子おなごに弱いのだ?」


 斎藤は、あゆみながら俊春の懐をおびやかした。いや。おびやかすどころか、ぴったりよりそって注意をひいて視線をあわせてからゆっくりと尋ねた。


 KY的な質問の内容は兎も角、斎藤にしてはめずらしい。


「誠に? 誠に一度もないのか?務めでも?」


 さらに、プライバシーを侵害しまくる斎藤。KYをこえ、モラハラっぽい気がする。


 もっとも、しりたくないわけじゃないが。


 俊春の相貌かおが、真っ赤になっている。斎藤から視線をそらすと、それを地面へ向けた。


 ついさきほどの狼や、戦うときのかれとはちがいすぎる。


 これはもう、奥手とかシャイとかの問題ではない。


 って、おれも興味津々なんじゃないか、と自分で自分にツッコんだ。


 まえをゆく副長と永倉と原田も、なにもいってはこない。が、気になって仕方がないようである。耳がダンボになっているのが、気配でわかる。


 斎藤がめずらしくこんな話題でツッコミまくっていることにも驚いているはず。プラス、もっとツッコんでみろとも願っているはず。


「いや、なにも意地悪で尋ねているのではない。みてくれも性質たちもいいのに、もったいないのではないか、と。世の中には、みてくれだけで性質たちが糞ほど悪い者がいるし、性質たちはいいのにみてくれが糞みたいに悪い者がいる。下手をすれば、どちらも糞っていう者もいる。ねぇ、副長、新八さん、左之さん、主計?」

「そりゃどういう意味だ、斎藤。ええっ?」

「どういう意味なんだ、斎藤?」

「どういう意味なんだよ、斎藤?」

「どういう意味なんです、斎藤先生」


 きかれた者が同時に叫んだ。叫んだ直後、夜の静けさを乱した罰かのように寒風が容赦なく吹きつけてきた。


 月光の下、斎藤の表情かおが驚愕をかたどった。だが、それもすぐに異常なまでにさわやかな笑みへととってかわった。


「世のたとえを申しております」


 それがなにか?、的な答え。


「どうもなにかがひっかかって仕方がねぇ」


 副長のつぶやきに、思わず頷いてしまうおれたち。


「幼少の時分ころ、兄上が申したのです」


 ややあって、俊春がギリきこえる程度の声できりだした。


 そのタイミングで、仮の屯所である秋月邸の立派な門構えがみえてきた。


「なんと、なんと申したのだ?」


 斎藤がせかした。


 おれもふくめた全員が、心中でせかしまくった。


女子おなごは、幼女おさなごであろうが老女であろうが、ひとしくおそろしきいきものである、と」


 俊春は、地面に視線を向けたまま告げた。


「男を虜にするばかりか利用する、と。そして、怒らせれば死よりもつらく苦しい、無間地獄をあじあわされることになる、と。ゆえに、ちかづくな。かかわるな、と」


 あぁたしかに、と心中で思っているのは、まえをあゆむ三人。副長と永倉と原田は、心中で過去を思い浮かべているのかもしれない。


 おれはちがう。そこまでとは思わない。


「わたしは、それをずっと信じております」


 現在進行形・・・。だからなのか?


「そして、うふふが理解できるようになった時分ころ、兄上がまた忠告してくれたのです」


 ついに、門前にたどりついてしまった。


 まえをゆく三人が歩をとめ、こちらに向きなおった。


「男はおまえにぶっこむだけだが、女子おなごはちがう。おまえのアレを欲し、自身のなかにとりこみ、極楽にいざなう残忍ないきもの。ゆえに、くれぐれも甘言に惑わされるな。おまえは、いつでも狙われておると心せよ。女子おなごへの対処は、わたしがおまえにかわってやる。ゆえに、おまえは男どもを相手にするといい、と」


 いっきに語られたその内容を理解するまでに、しばし時間ときがかかった。


 な、なんか真理をついているって気もするが、なんかちがっている気もする。いや。そもそも、そういう問題なのか?


「と、俊春、まさかかような戯言を信じているわけではなかろうな?まったくの虚言ではないが・・・。なにかが、なにかがちがっている気がする」


 斎藤のさわやかな笑みもひきつっている。俊春は、その問いに真っ赤な相貌かおでコクリと頷いた。


「土方さん、なんとかいってやれよ。こういうことは、あんたの十八番おはこだろうが」

「新八の申すとおり。ここは、あんたが面倒みるべきだ」

「な、なにゆえおれが・・・。そうだ、俊冬。もとはといやぁ、俊冬が間違った、否、都合のいい解釈をおしつけて・・・」


 副長がめずらしく動揺しつつ、周囲をみまわした。おれたちも、それにつられ・・・。


「兄上は、革をさがしてくると合図を送ってきてから消えました」


 俊春が、ひかえめに報告した。


「俊冬、あの野郎・・・」


 苦笑する副長。


「で、実際のところ、俊冬殿が女性の相手を?」


 そう尋ねてみた。


「務めは無論のこと、兄上はわたしにいいよってくるおそろしき女子おなごも対処してくださる。誠に頼りになる兄上だ」


「・・・」


 もはや、かけるべき言葉もない。

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