主計 吉原デビューする
吉原といえば、名作「吉O炎上」のインパクトが強すぎで、敷居がたかくてとっつきにくい。
京の島原や祇園は、地元なので現代にいたときから馴染みがある。ゆえに、そこまでは思わなかった。
ちなみに、「吉O炎上」は、1900年に入ってすぐの物語である。いまより、まだ将来の話というわけである。
深夜営業ではあるが、時間がおそい。ゆえに、有名どころの妓楼はいっぱいだろうという。というわけで、副長たちが昔いっていたという妓楼にゆくことにする。
島原大門とおなじように、ここにも大門がある。吉原大門である。吉原は、売春法が施工された昭和30年代以降、廃れてゆく。それにとってかわるのが、いわゆる「ソープ」である。
大門をくぐったところが、仲の町という。メインストリートである。そのあと、木戸門にゆきあたる。そこをくぐると、それぞれの町の大通りがあり、そこに妓楼や揚屋などがある。
各町には、妓楼や揚屋だけでなく民家や商家などもあり、フツーの町とかわらないという。
副長が案内してくれたのは、その町の一つ京町一丁目にあるこじんまりとした妓楼である。
かかげられた看板に、「三浦楼」とある。
映画や時代劇ドラマにでてくるように、一階は格子窓になってる。妓楼は二階建てで、二階で酒宴や宿泊、ぶっちゃけ、寝たりするのである。
やはり時間がおそいのか、格子窓の向こうにはだれもいない。
心なしかほっとする。正直、女性を選ぶなんて勇気はない。
「これはこれは、土方様」
妓楼にはいると、番頭が声をかけてきた。
え?副長は、昔いったところだっていってたよな?副長は洋装だし髪もバッサリ切って、ずいぶんとイメチェンしているのに、番頭はよくわかったものだ。
「先日は、ありがとうございました」
さらに、忘八、つまりご主人みたいな人が奥からでてきた。腰をおりつつ、先日の礼を述べる。
「先日?」
全員が、注目する。いや、俊冬以外である。
「接待にきまってるだろうが。なぁ、俊冬?」
「はい、副長」
「隊士のみなさんは、すでにいらっしゃってます。おいいつけどおり、お代はいただきませんので」
「頼む。おれたちにも、幾人か呼んでくれ。あいてる娘でいい」
副長は、隊士たちに「三浦楼」へゆくように指定したのか。でっ、すべて副長がもつと?
いや、おそらく局長と折半なんだろう。
全員が、しきたりどおり腰のものをあずける。そこは、京とおなじである。
双子も、いまは軍服に着替えている。なので、おなじように業物をあずける。
なんか、緊張する。「玉楼」や「大文字楼」や「稲本楼」といった有名どころの大見世ではないが、「三浦楼」もなれないおれには大見世とかわりない。
となりの俊春をみると、かちんかちんになってる。他人のことはいえないが、そこまで緊張しなくってもいいじゃないか、って思ってしまう。
京の「角屋」では、フツーにおねぇとウフフしてたのに。
俊春がマックスに緊張しているのをみると、こっちまで緊張度が増す。
そのまま、二階へと移動する。
こじんまりと思っていたが、けっこう広い。おれたちがとおされた部屋は、二十畳ほどの広さがあり、おなじくらいの部屋がまだ数部屋あるという。それ以外に、もちろん、布団を敷くようなちいさい部屋もあるわけで・・・。
酒肴が運び込まれ、あとは女性陣をまつだけである。
「なにをかようにきょろきょろしている?落ち着きやがれ」
怒鳴り声ではっとすると、副長がこちらをみている。
「え?おれですか?」
「ああ、おまえだよ、主計。さっきから、きょろきょろしやがって」
「す、すみません。こういうところ、なれないもので・・・」
「ソープってところにいってたんだろう?なら、女子を買うのもなれてるだろうが」
副長につづき、原田がツッコんできた。
「なにいってるんですか。ソープは、ちょっとちがいます。女性と風呂に入るところです。まぁたしかに、そういうことをする場合もありますけど・・・。ってか、おれはいってませんってば」
ふんっと鼻息荒く反論する。
「俊春、おまえもだ。なにをかようにちっちゃくなってる」
副長が、俊春にいった。副長のいうとおり、俊春はうつむいてちっちゃくなっている。このまま、消えてなくなってしまいそうだ。
俊春の隣に座っている永倉が、俊春の華奢な肩に自分の掌をおいてから副長のほうを指さした。
「堂々としてろ。まるでやり逃げしようって魂胆みてぇじゃねぇか?」
副長の口をみてから、俊春はまたうつむいてしまった。
「やり逃げって、まるで経験者みたいですよね」
「なんだと、主計?おれにいってやがるのか?やり逃げは、そこの二人と平助だ。おれは、かようなところで金子払ってまでする必要はねぇからな」
「なにいってんだ、土方さん。あんたが率先してやっていたじゃないか」
「新八の申すとおり。でっ、逃げ足がはやいのなんのって。結局、とっ捕まるのはおれたちと平助。用心棒どもにさんざん殴られたり蹴られたりしたのちに働かされ、近藤さんや源さんにむかえにきてもらってよ。山南さんに嫌味いわれて・・・」
永倉と原田が反論した。
「わたしは、一度たりともやり逃げなどしておりません」
そして、きいてもいないのにさわやかな笑みで宣言した斎藤。
そのタイミングで、女性たちがやってきた。




