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褌と汁粉

 まるで女性のようだ、というのがその隊士の第一印象である。


 顔はもちろんのこと、物腰もじつに女性的。

 よくもまぁこの男所帯の新撰組でやっていけるものだと、ある意味感心してしまう。


 すると、その隊士とおなじ組の強面の隊士が教えてくれた。


「あいつは、あっちのほうで気に入られてるからな」、と。


 なるほど、と妙に納得する。


 その隊士の名は、坂井さかい


 みためはまだ未成年にみえるが、さほどかわらない年齢としらしい。


「さすがに、褌は無理だったようだ」


 生真面目な表情かおでさらりと告げる山崎に、わざと副長を真似て眉間に皺を寄せ、いい返す。


「だーかーらー、申したはずですよ」


「冗談だ。まったく、将来さき人間ひとは、冗談も通じぬのか?」


 さらに、真面目な表情かおでさらりという。それから、懐から手拭を取りだし、おれに差しだす。


 斎藤にお願いしていたものが、ようやく届いたのである。


「うまくいくかな?」


 島田が巨躯を折り、相棒の頭を撫でながら囁く。


「冬になったら、自慢の汁粉を馳走してやるぞ、兼定」


 声量をさらに落とし、相棒のピンと立った耳に囁く。


 たしかに、そうきこえた。


「島田先生、それはまずい・・・

「島田先生、それはまずい・・・ですよ」


 山崎とかぶる。

 思わず、顔をみ合わせてしまう。


「なんだと?二人とも、それは、どういう意味だ?」


 おれたちに向き直り、姿勢を正して尋ねる島田は、むすっとしている。


「犬は、甘いものはだめなのです」

「かように糞甘いものはだめだ」


 またしても山崎とかぶってしまう。


 そこで、思いだす。


 そうだ、島田は、冬になると得意の汁粉を作って隊士たちに振舞う。しかも、その汁粉は、糸をひくほどの甘さで、だれも食そうとしなかったらしい。


 本人は、これくらいの甘さでないと物足りぬとばかりに、一人おかわりしていたらしいが。


 山崎のまずいというのは、汁粉そのものが不味いという意味である。


 おれのほうは、美味い不味いではなく、犬にそういうものはご法度だというまずいの意味である。


「なにゆえだ?あのうまさがわからぬのか?そうだ、犬が喰えなくとも人間ひとは喰えるであろう?」


 島田は、おれをみおろす。


 えもいえぬ威圧感でおさえつけてくる。


 正直、甘いものはあまり好きでない。それどころか、菓子類全般が得意でない。

 このまえの菓子も、一つ二つで充分である。


 死ぬかもしれない・・・。


 冬を越せるのであろうか?


 いや、このままでいくと、つぎの冬は戦がはじまる。だから・・・。


 いや、それも阻む要素としては薄いかも。

 島田なら、わずかな小豆で作ってしまうだろう。その糸ひき汁粉を・・・。


「それよりも、うまくいくに違いあるまい」


 山崎は、話題を最初の島田の問いへと戻す。


 さすがは監察方、と心中で称讃する。


「もしもが重なっていれば、の話です。試してみないとわかりませんよ」

 受け取った手拭を片掌に、相棒のまえに立つ。


「相棒、頼むぞ。もしもの芽を摘んでくれ」


 相棒は、しばしのあいだ手拭を嗅ぎ、黒い鼻を宙へと突きだす。


 屯所のある一画へ顔を向ける。低く唸るのは、ヒットしたからである。


 ああクソッ!冗談抜きで、さっそくきたじゃないか・・・。


 そこで、その女っぽい隊士に結びつくってわけである。



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