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モンスター隊士

 子どもらは、双子のことが大好きである。いまさらであるが。


 ふだん、局長や副長がなにかいいつけても、「えー」だの「あーあ」だのぶーたれる子もいれば、溜息をついたり表情かおにだしたりする子もいる。

 一応、小姓なのだから、結果的にはやるのであるが。


 だが、双子にたいしては、率先して手伝いたがる。そして、双子もうまい。そうするよう仕向けている、というわけではない。だが、手伝いたいと思わせ、実践させる。そういうふうに導いている、というのであろうか。 


 というわけで、厨で、子どもらとともに手伝いをする。


 野村もやってきているが、すでに治っている腹具合の不調が、いま、このときになって再発し、厨にある椅子がわりの木箱に座って眺めている。


 その腹具合も、夕餉のまえにはすっかりよくなるのである。じつに都合のいい腹である。


 子どもらのなかには、興味をもったらとことん追求したいという、前向きな子がいる。料理に興味をもつ子もいれば、DIYに興味をもつ子もいる。もちろん、兵法やら政に興味をもったり、書や算術が面白いと思う子もいる。剣術や槍術、柔術を貪欲に学びたいと思っている子も。


 双子がそういった子たちに、ときの許すかぎり教えてやっている。もちろん、それはほかの隊士たちもおなじで、DIYなら相棒の御殿をつくってくれた伊藤が教えたり、文学関係については文学師範である尾形俊太郎おがたしゅんたろうが教えたりしている。


 双子が華麗な魚捌きを披露しているところに、副長がやってきた。横倉甚五郎よこくらじんごろうという、多摩出身で天然理心流の遣い手を連れている。


 横倉は、恰幅がいいわりには動きがはやく、沖田とおなじく突き技に長けている。

 坊主頭で人のいい性格から、「仏の甚五郎」と呼ばれている。


 当人曰く、「いつ、誠の仏になってもおかしくない」らしい。「リアル仏の甚五郎」というところか。


 当人は、そのふたつ名を気に入っているので、それを冗談につかっている。


「餓鬼ども、双子先生の邪魔するんじゃねぇぞ」


 厨に入ってくるなり、副長が注意する。その表情かおは、親戚の子どもらをみるような、穏やかなもの。


「承知」


 子どもらは副長のいいつけでも、双子のまえなのでいっせいに了承する。


 こうしてみると、みな、最初に会った時分ころより物理的にも精神的にもずいぶんと成長している、とつくづく感じる。


 厨の入り口にお座りしている相棒と、視線があう。が、ふんと鼻を鳴らされてしまう。


 情けない話だが、相棒のツンツンにも慣れてきてる気がする・・・。


「弾左衛門との話がおわった。おかげで、やつのひととなりってのはちったぁわかった。で、おめぇらはどうみる?」


 双子は前垂れで掌を拭いつつ、副長にちかづく。


 おめぇらというのは、もちろん双子のことであっておれは含まれていない。


「義侠心にあついかたのようですな。かれならば、とくに不都合はないかと。ですが、その大勢の手下てかのなかには、金子目当ての者もおりましょう。主計の話でも、逃散する者があいつぐ、と」


 俊冬が応じる。副長は、一つうなづく。


「仕方あるまい。期待しておかねば、残ってくれただけでありがたいと思えるはず。弾左衛門のほうは兎も角、新門の親分には申し訳ねぇが、博徒や侠客はあてにならねぇな」

「すべてがすべて、というわけではないのでしょうが・・・。ひきつづき、入隊希望者のことは、われらが確認いたします」

「頼む、といいてぇところだが、殴られたり蹴られたりしたところは大丈夫なのか?」


 双子は、たがいの相貌かおをみあわせる。


「打たれなれておりますゆえ」


 それから、おたがいを指さし答える。



「副長、お客人が参っております」


 そのとき、厨の入り口に隊士があらわれた。元七番組で、元極道(やくざ)の田部である。


 井上の死後、その手下てかである七番組の隊士数名は、ほかの組と同様、永倉の二番組、斎藤の三番組、原田の十番組のいずれかに加わっている。

 っていうよりかは、組の編成じたいがうやむやになっている。


「ああ?また博徒か侠客か・・・。いや、すまねぇ」


 副長は、いいながら厨の入り口をふりかえり、そこに田部を認めてはっとする。


「いいえ」


 あいかわらずいぶし銀の田部である。副長の謝罪に苦笑している。


「山岡鉄舟様とおっしゃる幕臣の方で、局長と副長、双子先生に面会されたいと」

「山岡?ああ、浪士組のときの・・・」


 副長がつぶやく。


 さっき会ったばかりの山岡が?


「用件は、おおよそ察しがつきます」


 俊冬の困ったような声音。


「では、会おう」というわけで、田部が山岡を厨に案内する。



「利三郎、そこをどきやがれ。お客人に席をあけろ」


 挨拶がおわると、副長が野村に怒鳴り散らす。


「ここ、席じゃありませんが」

「てめぇっ、座ってるだろうが?座れればいいんだよ」

「ですが、わたしは腹が・・・」

「てめぇっ!利三郎、切腹してぇか?」

「副長、いくらなんでも切腹で腹痛は治りま・・・」

「いいかげんにしやがれっ!」


 野村・・・。

 おまえ、どんどんモンスター隊士化してるぞ。


「利三郎、副長バイス・コマンダーのパワハラについては、またゆっくり話をしよう。いまは激怒ぷんぷん丸どころか、マジギレで超絶デンジャラス状態だからな。クールダウンさせた方がいい。子どもたちと相棒と、干し柿でも喰ってろ」


 略語や若者言葉、それに英語を駆使し、提案する。途端に、野村はすっくと立ちあがり、「りょ」と敬礼する。それから、山岡に一礼してでていった。


 柿って、腹を冷やすんだっけか?ま、いっか・・・。


「なんだありゃ?」


 呆然とする副長。


「主計は、笑い以外にいま一つ取柄がございますな」


 俊冬が笑う。


 つまり、野村遣い(マスター)ってか?


 山岡が野村の座っていたところに座り、双子はふたたび魚を捌きはじめる。

 冬といえど、鮮度は大事というわけである。


 副長は、横倉に下がるように指示し、自分は山岡のちかくにある納戸に背をあずける。


 魚を捌いている双子にかわり、二人に白湯を入れて手渡す。


 でてゆけといわれなかったので、ひっそりといることにする。


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