「ザ・忍術」
沢村には、自分のものだった毒針がみえぬらしい。
沢村は、それらをバック転で回避する。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・裂・在・前」
すでに俊春は、樹上からジャンプしている。
「九字護身法」、忍者漫画まんまで、空中で印を結ぶ。
「火遁っ!」
叫ぶなり、俊春の口から火炎が飛びだし、バック転で着地したばかりの沢村を襲う。
ひやああああっ!
脳内で、「ナOト」と「カOイ伝」がせめぎあっている。
沢村は、さすがである。火炎が迫りくるまでに、さらにバック転で距離をおく。それでも、装束の裾に火がついてしまった。
そこも、さすがである。火がついてパニックになることもなく、ちかくにあるプチ池までバック転で後退し、裾を池につけて火を消す。
俊春はいったん着地し、すでにそこから神速で間を詰めつつある。
池の向こう側へとまわる沢村。池をはさみ、対峙する二人。
みな、固唾を呑んでみまもる。
俊春は、みじかい笑声をあげると、一歩一歩、歩をすすめる。池の上を、である。水蜘蛛でもつけているのかと思ったが、たしかに素足。忍具など用いていない。
沢村の人生にくたびれ果てているような表情は、いまや驚きすぎで疲れ果てている表情になっている。
俊春は印を結びつつ、水の上をゆっくりとあゆむ。
「水遁っ!」
叫ぶなり、池の水が真っ二つに割れ、水柱となって沢村へぶちあたる。
「モーゼかいっ!」
思わず、突っ込んでしまう。もちろん、小声で。
水柱がおさまった。
びしょ濡れの沢村は、じりじりとうしろへさがっている。
池を渡りおえた俊春が、またもや印を結んでいるからである。
結びおえた俊春は、どこからとりいだしたのか、木刀のようなものを握っている。
そのタイミングで、杜の奥から一陣の風が、ってか突風がふいてきた。そのすさまじい風が、俊春をのみこむ。
「風遁っ!」
すさまじい風の刃が、沢村を襲う。回避のしようもない。突風に呑まれ、うしろの樹に叩きつけられる。
おおっ、さっすが忍び。タフである。
沢村は、よろよろと立ち上がりつつ、俊春に向けてなにかを投げつける。
手裏剣である。それらもやはり、指の間にはさんで受け止める俊春。そして、その掌を沢村に向けてひらめかせる。
手裏剣は、沢村の背にある大木のかなり上部に突き刺さる。
それをみ上げる沢村。あまりのノーコンに、かえって怪しんでいる様子である。
俊春が、ジャンプする。沢村の頭上を飛び越し、大木を駆けあがる。
「チャクラのコントロール、ばっちりやないかっ!」
「ナOト」のワンシーンを思いだしつつ、またもや小声で突っ込む。
俊春は、突き刺さった手裏剣を土台につかい、さらに上へ駆けのぼり、あっという間に枝の間に消えてしまう。
敵も味方も、みな、ひとしく口があんぐりあいている。
双子がいれば、小説も漫画も必要ない。心底、そう思える。
気がつけば、いくつかあるすべての篝火に、火が戻っている。
俊冬と視線があう。にやりと笑う俊冬。永倉にフルボッコにされた傷だらけの相貌も、もとがいいので野性味あふれる感が半端ない。
空気を斬り裂く音。沢村は、頭上から飛来してきたものをすんでのところで避けている。じょじょに、うしろうしろへと下がってゆく。
ざざざっという音が・・・。
俊春が松の大木の上部から飛翔し、空中で印を結ぶ。
「土遁っ!」
かれは、あんなに高いところから飛び降りたにもかかわらず、音もなく着地。叫びとともに、両掌を地面に叩きつける。
「ぎゃーっ」
うしろへとひいていた沢村が、悲鳴とともに消えた。
まるで、裂けた地面に呑まれたかのように・・・。
ゆっくりと立ち上がり、両掌をあわせて残心する俊春。
敵味方関係ない。みな、声もないどころか、この異世界ファンタジー忍術バトルに驚きすぎ、ってか、度肝も魂も抜かれすぎて腰を抜かしている。
これで褌一丁って恰好でさえなければ、最高にクールで超絶エキサイティングなシーンだったはず・・・。