お話の主人公は女の子だよね
「それで、おまえがいた時代は、どうなるんだ?」
局長と副長のだんだら羽織論争を横目に、原田がきいてくる。
「そうですね。歴史、とりわけ戦とか暴力がからむようなものは、どちらかといえば男性が好むものですが、おれのいた時代になりますと、女性も興味を抱くようになりまして」
「ほう」
「へー」
女性という言葉に反応するのは、もちろん、ナンパ野郎というのか、スケコマシというのか、副長と原田である。
「もちろん、昔を踏襲した真面目な話もおおいです。ですが、タイムスリップ、つまり時代を逆行するおれみたいな話とか、転生、これは死んで生き返ったらこの時代のだれかになっていた、とかがおおいですね。そういう話も、たいていは若い女性か男性・・・」
いってから、はたと気がつく。
幕末にかぎらず、タイムスリップ系や転生は、高校生の男女、もしくはそれにちかい年齢がおおくないか、と。
「信長Oシェフ」、主人公のフレンチのシェフは、結構いってたよな。それから、「JON」。幕末にタイムスリップする脳外科医の話。あれも、主人公は結構いってた。
だが、ほとんどが若い。すくなくとも、犬連れの二十代というのは、なかった、よな?
「そういう設定でなくっても、理由ありで男装で入隊する女性とか・・・。うーん、真面目な話でも、たいていは、色恋がからむものですね。あ、もちろん、女性とのって意味です。創作の基本は、バイオレンス、セックス、チルドレンやアニマルですから」
わざと日本語はつかわない。
ふと、双子と視線があう。
二人の傷だらけの相貌に、ニンマリと笑みが浮かぶ。
意味が、わかるのか?きっと、異世界転生で通訳でもやってったんだろう。
「つまり、暴力、色恋、子どもや動物。これらが入っているほうが、ウケるのです」
なんだか、創作講座っぽくなってる。
「それで、その男装の女子というのは?どうなる?」
意外にも、斎藤が喰いついてきた。
そういえば、少女漫画で、男装の女の子が入隊し、そこで繰りひろげられるどたばたストーリーがある。女の子は月代まで剃って入隊するが、沖田にバレてしまう。二人は、好き同士になるが、そこはストーリー上、すれちがい、誤解、がおおく・・・。その娘のことを、たしか斎藤が好きになるんだったか?
思わず、ぷっとふいてしまう。想像できない・・・。
「たいてい、だれかと恋仲になりますよね。でもほら、女性ってバレたら大変ですからね。それを巡って、筋書きがすすんでゆくわけです。斎藤先生は、クールな、いえ、冷静な剣士で、副長の懐刀として、めっちゃかっこよく描かれていますよ。女性との逢瀬もあったりして」
斎藤の相貌に、照れ笑いが浮かぶ。
いったい、かれは、いまのどこに照れているのだろう?
「おれは?おれは、どんな別嬪さんと恋仲になる?」
うっ・・・。
よりによって永倉か?すまない、永倉。おれは、ついぞあんたの色恋沙汰メインの創作にふれたことがない・・・。
「永倉先生は・・・。そう、小常さん一筋の愛妻家で、色恋より新撰組の最強の剣士として、かっこよく描かれることがおおいです、はい」
ふうっ。体裁を取り繕うのも大変だ。が、まったくの嘘ではない。
「そうかそうか」
うんうんとうなづく永倉。
あ、それで納得しちゃうんだ・・・。
「あ、わたしは?わたしはでてくるかな?」
うっ・・・。島田?
正直、きつい。恋愛面では、乙ゲーですら、対象になってなかったかも・・・。
「し、島田先生は・・・。そうですね。山崎先生とともに、局長や副長、それから、新撰組そのものを支える重要人物として、描かれています」
これもまんざら嘘ではない。ただし、山崎が前半部分を支えたのに対し、島田は後半部分、いまからである。
「わたしは、どうだ?」
はぁーっ・・・。局長?
恋愛面では、みてくれのわりには女にだらしない感が半端ない。
そして、これからのことのほうがドラマチックである。
「局長は、それはもう正義感の強い、立派な武士として描かれています」
これも、真実。かなり端折っているだけ。
「おれは?おれはどうだ?」
原田か。これは、問題なし。
「ええ、新撰組一の槍遣いとして、かっこよく描かれてます。あと、ルックス、外見もいいので、おまささんと出会うまでは、女性との色恋沙汰がすごかったとも」
「だろうな」
おいおい、原田よ、納得するんじゃない。
副長と瞳があう。
ニヒルな笑みが浮かぶ。
問わずとも、副長にはわかってるんだ。かなりどころか、超絶マックスに恰好よく、女性にもモテモテだってこと。
「副長は、松尾芭蕉も驚くほど句がお上手だということと、自尊心が鼻もちならないほど高いってことが、どの作品にも描かれていますね」
「なんだと?」
「グッジョブ、主計」
以前、教えた英語を覚えていたらしい。永倉が、拳を突きだしてくる。それに打ち合わせながら、「センキュー」と返す。
「くそったれ、主計」
副長が毒づくと、みな、笑いだす。
「ええ、副長は、一番かっこいいですよ。色恋沙汰も副長が一番。そのつぎが、沖田先生や原田先生、ですね。藤堂先生も同様です。井上先生は、色恋沙汰というよりかは、みんなを支えるお父さん的な役割でしょうか」
しばし、いない者に想いを馳せる。
「ならば、なにゆえおぬしだ、主計?」
「え?それ、どういう意味です、俊冬殿?」
なんの突っ込みか?
「男装の女性や、十代の男女だとすれば、おぬしは規格外ではないか?」
はい?そこ、ついてくるか?
「そうだよなー、たしかに、女子のほうが、みていて愉しいし、瞳の保養になる」
「さよう。新八さんの申す通り。もしも、男装をしったとしても、わたしだったら、護ってやるな。主計、おぬしは、正直、護りたくない」
「なにいってんだ、斎藤。そりゃ、男装の女子にたいして失礼だろうが。けなげにも、男子としてふるまってんだ」
「左之、なにをズレたことを・・・。もっとも、わたしも、女子とわかったとしても、そっとみ護ってやるがな」
「かっちゃん、局長のあんたがなにいってる?隊士に示しがつかん。女子が、どれだけ男っぽくふるまおうが限界があるだろうが。もっとも、おれもそっちのほうがいいがな」
ひどい・・・。
みんな、タイムスリップしてくるのなら、若くてピチピチのギャルのほうがいいんだ・・・。