夜な夜な・・・
身をよじり、全身で双子を拒否る。
なにをされるかわからないし、このあと、どんなことをつぶやかれ、拡散されるかわからない。
きっと、バズるはず。ああ、間違いない。
部屋で菓子を貪り喰っている、子どもらと組長三人。それどころか、仮の屯所や病院にいる隊士たちの間でも、バズりまくるにちがいない。
「あぁ兄上、きかれましたか?主計が、主計が、われらのせっかくの善意を、やさしさを・・・」
俊春ーーーーっ!なにいってる?
悪意に満ち満ちた善意と、下心ありありのやさしさじゃないかっ!
「主計っ、せっかくのコウイだ。心ゆくまで堪能しろ。八郎、でよう。のぼせちまいそうだ。俊冬、俊春、いい湯だった。久方ぶりに、心身ともに休まった。主計には、至高のもてなしをしてやってくれ」
「承知」
こっちがいい争っている間に、副長と伊庭は湯船につかり、さっさとでていってしまう。
コウイって?好意?それとも、行為?
それに、置いていかないで・・・。
「副長の命である。背けば、切腹であるからな」
「兄上の申されるとおり。われらも、副長の命には逆らえぬ」
両脇からささやかれ、ぐいぐいとサンドイッチされる。
「ぎやあああーーーっ」
絶叫は、相棒に届いただろうか?助けに飛び込んできてくれないのだろうか・・・?
「さ、さわらないで、お願いですから」
ううううっ・・・。
畳の上に寝そべっているが、どっちを上にしても痛みはかわらない。あきらめ、胡坐をかく。
まだこのほうが、畳にふれる範囲が狭くなるだけマシか。
どっちにしても、 着物が痛すぎる。生地がすれて、痛すぎる。
くそっ!角質が、全部剥がれ落ちてしまったにちがいない・・・。
双子ーっ!糠袋で、こすりまくるなんて・・・。
あれはもう、セクハラやパワハラをこえてる。新手の拷問だ。
いや、たしか、中世のドイツで、「ヤギ責め」という拷問があったはず。
足の裏に塩水をぬり、それをヤギがひたすらなめるのである。
というと、たいしたことなさそうだが、皮膚が破け剥がれ、肉をもはがれ落とし、骨があらわになるとか・・・。
浴室の床におさえつけられ、糠袋でごしごしごしごし・・・。
さらに時間をかけたら、角質どころか、肉がぽろぽろ剥がれ落ちたはず。
いったい、なんの恨みがあるんだ?玩具にするんだったら、もっとおてやわらかに願いたい。
いや、そんな問題じゃない。麻痺してるぞ、おれ。
全身が真っ赤に腫れあがってる。
角質が剥がれ落ちまくった状態で、雑菌が入って炎症を起こしでもしたら、訴えてやる。でるとこにでてやる。
ううっ、残念。訴えでる奉行所も、機能していないにちがいない・・・。
「わーい、主計さん、痛む?」
「主計さん、ここは痛む?」
大人だけでなく、子どもたちまでからかってくる。
周囲に群がり、指でつんつん突いてくるのである。
「だから、さわらないで」
大人も子どもも、ききやしない。
「じゃぁここは?」
「うわっ、なにするんだ、泰助?」
泰助が、大事なところを突いてこようとする。
「おほっ!ずいぶんと念入りにやってもらったんだな?しかも、二人がかりで?」
原田っ、なにいってんだ?
「なにいってんです?ソープじゃあるまいし」
「なに?ソープって、なんなの?」
思わず、叫んでしまった。
田村の問いで、はっとわれにかえる。
ちょうどそのとき、双子がやってきた。
二人とも、胸元に湯呑をのせた盆を抱え、頭の上に菓子折りをのっけている。
まるで、淑女の「美しいあるき方講座」みたいに、落とすことなくあゆんでいる。
そして恰好は、三助から、道着と袴姿に戻っている。
おれが答えるのを、大人も子どもも瞳をきらきらさせ、いまやおそしとまっている。
いちはやく、空気と心をよみまくる双子。
二つの男前の相貌にひらめく、悪魔的な笑み。
「ソープとは、OOOが✕✕✕して、△△△するところ、と申しております」
俊春の言葉にかぶせ、ピー音を入れてしまう。
「はあ?わかんなかったぞ」
「主計、うるせぇっ」
「主計さん、ピーピーうるさいよ」
大人も子どもも、ブーイングである。
「ってか、相棒っ!なんでおまえが、そんなことしってるんだよ?」
庭でお座りしている相棒に、部屋のなかから怒鳴ってしまう。
「おぉ兼定、なんとかわいそうな・・・。いまのは、兼定ではなく、おぬしの心をよんだ。おぬし、かようなところにいっておったのか?だったら、もっとはやくいってくれたら、夜な夜な・・・」
茶を配り、菓子をおいた俊春が、いってくる。
「なにいってんです?そんなところ、いったことありませんよ。それを、取り締まったりする側だったんです。任務ですら、チャンスがなかった。もとい、そういう機会がなかった。プライベートでなんて、どこにあるのかすら、しりませんでしたよ」
最後のところは、心中で「たぶん」とつけたす。
そういえば、たしかに、そういった風俗系の囮捜査の任にあたったことはない。
たしかに、一度もない・・・。
「だいたい、あんなにこすりまくらなくってもいいじゃないですか?しかも、みなに誤解を与えるようなことを・・・」
キレまくる。
「兄上っ、きかれましたか?主計が、またわたしを・・・」
俊春めっ!
またしても、「世界O作劇場」の憎たらしい悪役少女みたいに、俊冬のうしろに隠れ、非難してくる。
「あぁあぁ主計、またしても、弟をいじめてくれたな?おぬし、「仏の顔も三度」という言の葉を存じておるか?これが最後。つぎは、ないと思え」
俊冬は俊冬で、指をパキパキ鳴らしつつ、死の宣告を叩きつけてくる。
「つぎは、大事なものがぽろりととれるほど、糠袋で磨いてやる。以前、わたしがおねぇに味あわされた恐怖を、そのままそっくり味あわせてやる」
そうだった。俊冬は、昔、おねぇに大事なモノに、句を彫り込まれそうになった、と・・・。
ってか、なんでおればっか?こっちがイジメられてるんじゃないか。