What is that?
目隠ししていながら、迷うことなく三人のまえに立ち、きっちりと一礼する双子。
スイカ割りには、加えたくない人種である。
原田が、威嚇っぽくタンポ槍をしごく。それから、三次元の世界でよくやるように、くるくるとまわす。
長身の原田が、槍をまわしたり突いたりするのは、ひかえめにいってもド迫力である。
タンポ槍が宙に軌跡を描き、空を裂く。
そのビュオッビュオッという音が、いかにもって思った刹那、永倉と斎藤が動いた。
永倉は腕を振り上げ上段から、斎藤は剣先を右爪先へ向けて下段から、それぞれ、間を詰める。詰めるといっても、神速の摺り足。一瞬にして、近間に入る。
一対一ではない。どちらも、狙うは俊春。
そして、原田もまた・・・。
継足でもって間を詰めると、そのままタンポ槍を繰りだす。それもまた、俊春への攻撃。
原田の突き技は、タンポのない棒の先だけであれば、瓦五枚を突き割るだけの威力がある。タンポがついていても、当たれば痣になるほど。
神速だけではなく、破壊力もある。
永倉、原田、斎藤、新撰組の組長三人による連携技。それらが、まだ構えもせず立っている俊春を襲う。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
三人だけではない。この場にいる全員が、またしても三次元をみる。
永倉と斎藤が放った一撃を紙一重でかわしたばかりか、真正面からくりだされた原田のタンポ槍にのっているのである。
漫画でよくある、インドや中国の仙人っぽい恰好をした武術家や忍びがやるように、棒の上にのっている。
一瞬である。一瞬であるが、俊春は、たしかにタンポ槍の上に立っていた。
いったい、どういう原理なのか?そういった漫画をみるたびに、不思議でならなかったが、俊春までやらかすのか?
きっと、異世界転生で空中浮遊もやってました、なんだろう。
「なんですか、あれ?」
伊庭が、震える声できいてくる。
「ええ。あれが、かれらです」
俊春は、タンポ槍を土台に、その上から後方宙返りをしてのける。その衝撃で、タンポ槍ごと原田の上半身がまえのめりになる。
全員が、体勢を崩した原田より、宙を舞っている俊春へ視線を移す。後方宙返りは見事なもので、猫のごとく丸くなりつつ、空中で見事な放物線を描いている。
刹那、かつんっという小気味よい音が響き、原田のタンポ槍が跳ね上がる。手許からはなれ、ながい槍もまた空中をゆっくりと舞う。
俊冬である。まえのめりになり、上半身がらあきになった原田の掌から、タンポ槍を弾き飛ばしたのだ。
「ちっ」
永倉の舌打ち。俊冬が、そのまま突っ込んでくる。ついさきほど、俊春へ上段から真向斬りをはなち、不発におわったばかり。すぐに体勢を整えているのはさすがであるが、それも俊冬にとってはなんということはない。
軌跡すらみえぬ。正直、どこをどうやったのかはわからぬが、兎に角、永倉の掌から木刀が弾け飛ぶ。
「ちいっ」
そして、ほぼ同時に斎藤の舌打ち。
こちらも、下段からの逆袈裟が不発におわり、上段の構えをとろうとしているのはさすが。が、後方宙返りで床に着地後、すぐに間を詰めてきた俊春にとってはなんということはない。
やはり、どこをどうやったのか。兎に角、上段に構える斎藤の掌から、木刀が弾け飛ぶ。
子どもも大人も、しばし言葉もなく、この神業をただ呆然とみつめる。
「なんなのです、あれは?」
伊庭が、再度尋ねてくる。
「あれが、最強の剣士ってやつだ」
副長が、ぽつりと応じる。
ってか、そんな場合じゃない。頼みの三人は、手首をおさえつつ、見物人たちのところにひいている。
木刀や槍を打って弾き飛ばしたはずなのに、手首をおさえてる・・・。
その衝撃のものすごさがよくわかる。
みえぬはずなのに、双子はしっかりとこっちを向いている。
小動物に狙いをさだめた獣の王のごとく、こちらへゆっくり歩をすすめる。
「ひえええっ、こっちにむかってきますよ」
思わず、情けない声で訴えてしまう。
「ふんっ、きやがれってんだ。喰らわして・・・」
副長のそんな悪役っぽい台詞も、途中で・・・。
「ひゃあああっ」
と、飛んでくる。「ドラOンボール」の「孫O空」や「ピOコロ」みたいに飛んでくる。
い、いや。実際は、それほど神速でむかってくるってことだが、兎に角、はやすぎてどうすればいいかわからない。
パニックになってしまい、それでも体は覚えているらしく、木刀で頭部を護ろうと・・・。