『The Syoubu Part 3』
「おいっ俊冬と俊春が、勝負しようと申している」
「いえ、副長。勝負、ではございません。稽古でございます」
副長の提案に、俊冬が苦笑とともに突っ込む。
永倉と原田と斎藤、伊庭が、双子と・・・。
しかも、双子は、沖田との勝負のときのように目隠しをし、片掌しかつかわぬという。
「おいおい、おれをないがしろにするつもりか?」
そこへ、だめだしする副長。
刹那、五人の相貌が「げえっ」となり、全身から拒絶のオーラがでまくる。
「いえ、副長、軽く・・・」
「いいや、おれもやる。ちったぁ体躯も動かさにゃな」
俊冬のまえに立ち、マウンティングする副長。
「仕方ねぇな。なら、主計、おまえも入れ。わかってるよな?」
永倉の、意味ありげな視線。
わかりたくないが、副長のチートを、おれが体をはってとめろ、という意味に違いない。
目隠しをし、準備をしている双子をみつつ、伊庭が尋ねてきた。
「あの二人は、かようにすごいのですか?」
「なんだ?しらねぇのか、八郎?」
副長に問われ、伊庭は苦笑する。
「ええ、あいにく・・・。噂ていどにしか。しかし、噂とは、たいてい尾ひれがつくものでしょう?」
「だったら、いっそいいがね。ありゃぁ、強すぎる。遣り合ってみろ、強すぎていっそすがすがしくなる」
「さよう。悔しい、という域ではなく、もはや武神といってもいい」
永倉と、斎藤である。
おっしゃる通り。
「もっとも、俊春のほうは、まだまだ鍛錬が必要な技もあるがな」
そして、原田。
伊庭が、かわいく頸をかしげる。
「へー、左之さんのおっしゃる技というのは抜きにしても、新八さんと斎藤さんにそこまでいわせるなんて、よほどなんですね。でっ、流派は?」
「マルチ、いえ、みようみ真似で、どの流派も遣いこなせるようですね。ですが、もともとは新陰流。柳生新陰流です・・・。あれ?ご存じないのですか?二人は、柳生家の人ですよ」
「それは誠かい、主計君?柳生家の・・・」
伊庭は、すぐに事情を察したようである。
「おかしな話かもしれませんが、かれらの名しかしらなかった。そうか、柳生の・・・」
双子であることの不幸に、思いをはせているのか。
「柳生っていったら、以前に一度、将軍家の剣術指南役に、稽古をお願いしてみたのですが、一蹴されてしまいました。そうか・・・。意外なところで、柳生の剣士と稽古できるなんて・・・」
うれしそうな伊庭。うん、告げてよかった、と思う。
だけど、正直、双子が新陰流を遣うかどうかはわからない。
「よし、準備が整ったようだな。おいっ左之、こっちを突くんじゃねぇぞ」
「そんなわけないだろうが、土方さん。そのままそっくりかえさせてもらうぜ。前回のときのように、こっちにとばっちりを喰らわせないでくれよ」
原田のいう前回とは、沖田と俊春の試合のときの、副長の胡椒爆弾テロ事件のことである。
もうすこしで、会津藩藩主やその側近たちに、鼻水と涙とよだれを流させるところであった。
「八郎、主計、さきにおれたちが仕掛ける。その間に、呼吸を整えろ」
「新八さん、呼吸を整えられるほどもちこたえられればいいんですがね」
永倉は、稽古をおえたばかりのおれたちに休憩しろ、といいたいのである。
が、斎藤は、さわやかな笑みとともにあいかわらず厳しい現実を突きつけまくる。
「ああ、申し訳ない。承知しました。わずかな間でももちこたえられるよう、最大限の努力はいたします」
永倉の無言の圧に、斎藤はさらにさわやかな笑みを浮かべ、了承する。それがまた、誠に嘘っぽい。
永倉、原田、斎藤が、おれたちのまえに立つ。
おれたちというのは、伊庭、おれ、それから、副長である。
緊張気味の伊庭、にやにや笑いの副長にはさまれ、ビミョーである。
伊庭は兎も角、副長は、よからぬ企みあり。
これ、絶対に間違いなし。