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いびりやパワハラに負けるな

 まるで、不祥事をおこした大企業、あるいは、団体のお偉いさんの記者会見の記者たちのように、かれらは新撰組の京での活動のことをやり玉にあげた。


 五人でたちあがり、ウソ泣きしつつ深々と頭を下げて陳謝しないといけないのか、と思ってしまて。


 これで、フラッシュでもたいて写真を撮ってくれたら完璧であろう。


 明日の瓦版は、「スキャンダルまみれの新撰組!」、「京での罪状の数々が暴露される」、「局長と副長は、訴えをしりぞける意向」などと、あることないことでにぎわうはず。


 重箱の隅をつっつくようなこと、どーでもいいようなこと、しょーもないこと、いまさら?ってことの質問が、永遠につづきそうである。


 そのすべてに、双子が連携して答えてゆく。

 さかのぼって浪士組だった時分ころのことから・・・。


 虚飾、方便、事実、これらをうまく使い分けている。

 俊冬は激しく応じ、俊春はやわらかく応じる。その連携が見事すぎて、まるでかれらも、試衛館時代から局長や副長たちとともに過ごしているかのように錯覚してしまった。


 局長も副長も、驚きにをみはっている。


 きっと、勧誘や詐欺のスキルもあるんだろう。


 さっと懐の懐中時計を確認する。

 二時間くらい経っている。


 そろそろ、新撰組いじめはおわりをむかえそうである。

 向こうの勢いが、じょじょになくなってきている。


 準備していた質問が、底をついたのであろうか。


 局長は、ポーカーフェイスをたもっているものの、あきらかにこの苦行に耐えかねている。

 副長にいたっては、それを隠そうともせず、トレードマークの「眉間に皺寄せ」のみならず、物理的にいつマウンティングをおっぱじめるかわからないオーラがでまくっている。


「これで、しまいですかな?」


 俊冬が、全員をみまわした。


「「眠り龍」よ、なにゆえ、新撰組そっちに肩入れしてる?おめぇらの主はだれだ、ええ?だれに忠誠を誓い、義をとおす?」


 またしても、勝が双子を遠回しに引き抜こうとしてきた。


「さよう。番犬が壬生浪などに与し、結果的に、上様を追い詰めた。幕府をおとしめ、あまつさえ、潰そうとしている。野良犬の集団めが・・・。犬は、犬同士というわけか?そもそも、百姓に刀などもたせたのが間違いであったのだ。ここにおらぬ会津や桑名も、とんだ荒くれどもを野放しにしてくれたものだ」


 大老酒井は、ふふんと鼻を鳴らしつつうそぶく。

 そのどれもが理不尽ないいがかりであることを、本人もわかっていながら。


「酒井殿、やめなされ」

「酒井さん、やめてくれ」


 小栗と勝が、同時にとどめた。


 が、おそすぎる。


「われらへの中傷はかまわぬ。が、それ以外については、きかぬふりはできませぬな、酒井さん(・・)


 酒井は、地雷を踏んだ。

 俊冬と俊春のなにかのスイッチを、入れてしまったのだ。


 いかなる気も感じられない。しかし、異様ななにかが、室内を満たしている。それは、この場にいる全員に、得体のしれぬ恐怖と不安を与えるに充分な威力をもっている。


 ここにいるだれもが、震えている。

 おれ自身も、震えているのを自覚した。


 わかってはいても、二人の底知れぬ力に、未知なる能力に、負けてしまう。


 息さえできない。重圧にも耐えられない。


「やめよ、俊冬、俊春」


 いや、ただ一人、いま起こっていることに抗い、うち勝った者がいた。


「控えよ」


 わずかに相貌かおをうしろへ向け、双子をたしなめた。


 局長である。

 その静かで深いバリトンは、双子のえもいえぬ力よりもわずかに勝ったようだ。


 刹那、すべてが消失した。


 思わず、肩で息をしてしまう。


「失礼いたしました、近藤様」


 双子は、同時に叩頭しつつ謝罪する。


「二人と知り合えたは、まさしく良縁。俊冬と俊春は、わたしや土方にとって大切な友。仲間でございます。失礼の段、ひらにご容赦くださいませ」


 局長は、さわやかな笑みとともに大老たちに告げた。


 ぐうの音もでない、とはこのことか。


 局長の度量のおおきさを、思いしったに違いない。


「そろそろ、でございます」


 末席に控えている永井が告げた。


 タイムリミットである。

 

 おれたちは、まだ放心状態のお偉いさん方を横目に、部屋をあとにした。



「松之大廊下」は、幅が4m、長さが50mある畳敷きの廊下である。

 これぞまさしく、「King of Rouka」って感じである。


 年末になると放映される確率が高くなる、赤穂浪士の一場面にでてくるが、じつは、刃傷沙汰があったのは、その一度ではない。

 その二十八年後、長門長府藩の藩主毛利師就(もうりもろなり)が、狂気乱心した信濃松本藩主の水野忠恒みずのただつねに、斬りつけられたのである。


 一応、刀番に太刀や脇差はあずけるルールではあるが、実際のところ、殿中差しと呼ばれる短刀は所持することができる。


 浅野内匠頭が打ち損じたのは、長袴で動けなかったためと、殿中差しであったためであろう。

 一方の吉良は、狩衣姿であったため、身軽に逃れることができた。


 ちなみに、長袴は礼装ではあるが、「動きにくいですよ」、と戦意のないことを示す意味でも着用されていた。



 こんな馬鹿長い廊下、真ん中あたりでガチに襲われでもしたら、目も当てられない。

 体術や護身術に長けているとか、短距離走が五輪選手並みにはやいとか、でないかぎり。

 

 ここを、長袴でしずしずあゆむ。

 うーむ、たしかに、「殿中でござる」って気分になるかもしれない。


 永井が先頭で、そのうしろに局長と副長が並び、そのうしろにおれ、最後尾に双子がいる。

 うしろをとられるのは、正直、好きじゃない。とくに、なにをしでかすか、いいだすかわからない双子が、うしろにいるとなると・・・。

 居心地が悪すぎる。


 真ん中あたりまできたとき、不意に永井が肩を震わせ笑いだした。

 一瞬、どきっとしたが、局長と副長、それから、双子も忍び笑いをしだした。


「よくやった、近藤。じつに、見事であった。みたか、馬鹿どもの相貌かおを・・・」

「歳、それから、俊冬と俊春が、うまくやってくれました。わたしは、自身の思っていることを告げたままでございます」

「おれじゃねぇよ、局長。それにしても、驚いた。おれですら、忘れてることや知らねぇことを、よく調べたもんだ」


 局長と副長が笑いつつ、うしろにいる双子へと相貌かおを向けると、双子は同時にあゆみをとめる。


「われらは、たいしてなにもしておりませぬ」


 俊冬の頬の刀傷の下に、やさしげな笑みが浮かぶ。


「山崎先生が、ことこまかく記録をとっていらっしゃいました。それを、みせていただいたのです」

「山崎が?そうか・・・。あいつらしい・・・」


 副長もあゆみをとめ、ぽつりとつぶやく。


「そして、井上先生から、暇暇に思い出話を・・・」


 俊春の相貌かおのたくさんの傷のなかに、やさしげな笑みが浮かぶ。


「源さんが、な・・・」


 局長もまたあゆみをとめ、ぽつりとつぶやく。


 山崎の記録に、井上の口述・・・。


 それを覚え、必要があれば事実を確認したり補ったりし、頭に叩き込んでいる双子。


 まさか、異世界転生で受験生もやってました、ってことか?


「さぁ、おまちだ」


 永井にうながされ、またあゆみはじめる。


 井上と山崎を追慕しつつ・・・。

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