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江戸城

「局長、さきに、幕閣の連中と話をせにゃならん。あんたは、堂々と胸をはってりゃいい。受け答えは、おれと俊冬に任せてくれ」


 江戸城がみえてきたころ、副長が局長に告げる。



 期待はしていなかったが、それでもわずかに落胆してしまう。

 幕末いまはビルやマンション等高い建物がないので、離れたところからでもみえるが、映画のセットか?ってくらいにショボい。


 もともと江戸城は、名軍師太田道灌(おおたどうかん)が、江戸氏のために築城した城である。それを、家康らが改築を重ねた。


 明暦三年(1657年)の明暦の大火で天守が消失し、それは経済的な理由で再建されなかった。くわえて、さきの安政二年(1855年)の安政大地震でも、多大な被害をだしている。


 それでも、江戸城は徳川幕府の象徴。江城こうじょうと呼ばれ、親しまれている。



 この城も、もう間もなく無血開城されるのである。そして、地震やら空襲やらで甚大な被害をだしつつも再建などされ、現代まで受け継がれる。たしか、2006年に日本100名城に選出されたかと思う。


「承知した」

「なにをいわれても、短気を起こすんじゃねぇぞ、かっちゃん」


 副長は、思わずプライベートでの呼び方をしてしまい、してから苦笑する。


「二条城のような騒ぎになったら、ことだからな。せっかく、双子が機会を与えてくれたんだ。それを無下にするようなことは・・・」

「ああ、ああ、わかっておる。悪いが歳、それをそのままそっくり返したいのだが・・・。二条城での一件ののち、歳が大暴れしたこと、いまや有名になっておるようだ」

「当然じゃねぇか。新撰組うちの局長が斬られたんだ。赤穂浪士のごとく、全員で討ち入らなかっただけまだましだ。あれは、おれのなかでは穏便にすませたつもりだ」


 局長に突っ込まれ、逆切れする副長。


「局長、副長、平素はわれらに気を遣っていただいていますが、江戸城ではそういった気遣いは無用でございます。どうか、われらを犬と思っていただき、態度もぞんざいに・・・」


 俊冬である。勝のときと同様、新撰組が「眠り龍」と「狂い犬」をてなづけ、つかいこなしているということをしらしめる必要がある、というわけか。


 いくつかの門を通る。が、いちいち案内板がたっているわけではないので、正直、なんの門なのかわからない。


「これが、桜田門だ」


 濠ぞいにあるいていると、木々が生い茂るなかにひっそりと門があらわれた。俊冬が、このときだけぽつりと教えてくれる。


 俊春が子どものとき、おおくの刺客を殺めた場所・・・。

 なにゆえか、「桜田門外の変」よりも、そのことのほうがリアルに頭をよぎる。


 あれ以来、何百回通ったであろう。俊春は、さして気にする様子もなく、あゆんでいる。


 そして、大手門を通過し、本丸御殿へ・・・。いよいよ、である。


 江戸時代、大名たちは、決められた登城日はかなりはやい時刻に屋敷をでる。遅参は厳罰になるという以前に、拙速こそが武門の誉れだとしていたからである。


 行列が大手門にいたると、まず「下馬」の立て札があり、そこで大半の供を残す。それからさらにすすむと、「下乗」の立て札が。そこで、御三家以外は駕籠からおり、徒歩で下乗橋を渡る。そこでも、ついてきている供はいなくなる。


 そして、中之門を通過し、中雀門にいたると、本丸の玄関がみえる。そこで、刀番に刀を、草履もちに草履をあずけ、大名は一人、無腰で御殿へと向かう。


 それ以降、たとえ御三家であっても、一人で行動しなければならない。


 様々なマナーがある城への登城。幕末期になると、それもうやむや、テキトーになっている。しかも、いまは、このすぐ将来さきがどうなるかもわからぬ不安定な状態。


 マナーなど、あってないようなもの。


 それでも、太刀や脇差はもちこむことはできない。


 久吉と沢に、全員が玄関先で得物をあずけ、馬の手綱と相棒のそれとを託す。


 とそこへ、永井の姿が玄関先にあらわれる。


「おおっ、まいったか、近藤、土方。相馬も・・・。兼定も、まいってくれたか。おおっと、撫でたいところだが、ときがない。馬鹿ども、否、老中が雁首そろえてまっておる」


 永井は、笑みをたたえて声をかけてくれる。

 相棒は、その永井にぶんぶんと尻尾を振っている。


 こちらから指示せずとも、愛想を振りまくタイミングと人物ひとがわかっているようだ。


 現代のときとはえらいちがいだ、とつくづく思う。


 沢の左脚許にお座りする相棒に、二人とともにまつよう指示する。


 ふんっと、鼻を鳴らす相棒。


「しっかり、局長と副長を補佐してこいよ」、といわれている気がする。


 相棒の代弁者俊春と、視線があう。

 かれが、苦笑する、


 たぶん、それはあっているのであろう。

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