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イケメン 江戸の町にあり!

 ボタンに苦戦する。


 やはり、なかなか難しいらしい。

 それでも、コツをつかめば、組長三人ともすぐにかけられるようになる。


 双子の仕事は完璧である。ちゃんと、軍靴ブーツも準備している。


 が、軍靴は、騎乗する将校のみ。歩兵は、素足か足袋に草履である。


 組長三人は、洋服を着ることはできても靴は勘弁してほしい、という。

 気持ちはわかる。ゆえに、靴は、おれがいただくことにする。



「だー、もうっ!苦しくてたまらぬ」


 永倉が、ボタンどころか生地までひきちぎらんばかりに、胸元を揺さぶっている。かれだけではない。原田と斎藤も、胸元を気にしている。


 これもまた、気持ちはわかる。これまで、胸元は解放感があったのである。急に布でおおわれたり、ボタンでとめるとなると、頸がしまっている気になるのも無理はない。


「お三方、すぐに慣れます。洋服のほうが、動きやすいのです。その証拠に、俊冬殿と俊春殿は、洋服のままでしょう?」


 三人が、俊冬に注目する。


「Oh dear! われらは、世界をまたにかける海賊もやっておった・・・」

「はいはい、わかってますよ、俊冬殿」


 俊冬のおちゃらけを、ぴしゃりとさえぎるおれ。


 たったの一言だが、俊冬の英語の発音がいいな、と内心で驚いてしまう。

 たしか、俊春が、英語をおねぇから寝物語に学んだというようなことをいっていたが、案外、異世界転生で通訳のスキルもあったりして。

 人語だけでなく、竜族とかゴブリンとかも・・・。


 この二人は、誠になんでもあり、だから。



 そのとき、隣室へとつづく襖が、音を立ててひらいた。


 でました、真打っ!


 颯爽とあらわれしは、この男、土方歳三。

「歴史上のイケメンランキング」において、日本史でも世界史でもあげられるイケメン中のイケメン。


 副長の着替えを手伝った俊春。

 男前のかれも、俊冬にぼこぼこにされたばかりのいま、「世界のスーパーハンサム」に付き従うその姿は、すっかりかすんでしまっている。


 全員の視線を、うけとめる副長。


 この注目を、心から堪能している。さらには、酔いしれている。


 組長三人と双子は、どんなことを思っているのか?考えているのか?

 


「みな、なにもいわなくていい。わかってる。口の端に、のぼらせずともな」


 おおー、さすがは土方歳三。「土方の土方による土方のための美」。すべての美は、ここに集約されてるっていいたいのである。その讃辞を、わざわざ述べる必要もない、と。


 だれもが、副長を、世界のイケメンを、声もなくみつめ・・・。


「なぁ土方さん、おれ、腹減ったわ。会津からの金子、配ってくれよ」

「だー、なにいってる、新八?土方さんのこと、みえてっか?かような恰好なりで、金子など配れっか。俊冬、頼む。はやいとこ、配ってくれ」

「まったく・・・。左之さんこそ、副長の恰好なり、みえてますか?かような恰好なりでも、金子くらい配れるでしょう?それに、新八さん、さきほど、あれだけ寿司を喰ったのに、もう腹が減ったと?」


 永倉、原田、斎藤・・・。


 当事者たちは、副長の容姿など、しょせん、自分たちと同レベルか、そこに毛がはえた程度にしか考えていないのである。


 結局、大騒ぎしているのは、おれだけってことなのか?


 どんだけ、副長が好きなんだ、おれ?


 おおっと、BL的要素はいっさいなし。男としてって意味でだ。


「それが、BL的要素だ、と申しておる」

「きゃーーー!」

「やはり、役立たず腐隊士だ、とも」

「きゃーーー!」


 相棒の代弁者俊春が右耳に、さらには、俊冬が左耳にささやいてくる。


 キャーキャー叫んでしまう、自分が悲しすぎる。



「新八っ、左之っ、斎藤っ!」


 美を否定されたと思ったであろう副長は、拳を振り上げ三人にうちかかる。


「おおっと、いったい、なんだってんだ、土方さん?」

「げえっ!これぞまさしく、「鬼の攪乱」ってやつか?」

「副長、わたしが、いったいなにをしたと申されるのです?」


 部屋のなかを逃げまわる三人。


 笑ってみていたら、副長に拳固を喰らってしまった。




 その午後、あらためて、外出することにする。朝と違うのは、おれたちが和装から洋装にかわっているということと、副長と双子がいっしょだということである。


 みなで、西洋医学所に局長を見舞おうというわけである。


 もしかすると、松本良順に会えるかもしれない。

 かれは、会ってみたい人リストのなかの一人である。



 こうしてあるいていても、副長の注目度が半端ない。とくに女性にかぎっては、よちよちあるきの女の子から、よろよろあるきのお婆さんまで、年齢など関係なく、みーんな、副長に視線がとまったままである。


 まあ、2、3%のわりあいで、原田や双子のほうへと視線が移ることも・・・。


 もちろん、それを副長もわかっている。ゆえに、レッドカーペットをあゆむハリウッドスターか、もしくは、ランウェイをあゆむモデルのごとく、意識しまくってあゆんでいる。


 周囲のおれたちは、江戸の町の風景の一部と化しているのか。引き立て役なのか。


 ときどき、「あら、歳さん?」だの、「まぁ、歳さん?」だのと、お声がかかるのは、永倉がいっていた、「江戸にごまんといる」という副長の元カノの幾人か、か?それとも、あと腐れのない”one-night stand”、つまり、一夜かぎりの関係の女性たちか?


 土方歳三、どんだけ女癖悪いんだ?どんだけ、遊んでるんだ?


 これもまた、土方歳三だから、ということで許されるにちがいない。

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