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ズボンの下にはいったいなにが・・・

「わかってるくせに。ちょっと、意地悪しないで、教えてください」


「おいおい主計、真っ赤になって、なにをかようにわめいている?」


 永倉は、四つん這いでうしろからおれにちかづき、その姿勢のままみあげている。


「おねぇに教えてもらった、異国の言の葉がある。ナッシング。これであっていると思うが?おぬしのしりたいことの、答えになっているといいのだが・・・」


 俊春のきらきらしたが、さらにきらきら度を増している。


「ナッシング?マジで?」


 ショック大である。


 厳密には、調べたことがある。「グーOルさん」に尋ねたことが・・・。



「さあ、主計。おぬしも、ナッシングでゆくがよかろう。恥ずかしければ、隣の部屋で」


 俊冬の四本しか指のない掌が、隣を示す。


 思わず、疑いのまなこで双子をガン見してしまう。が、副長から「とっとと着替えてこい」、と急かされ、仕方なしに隣室にいって着がえはじめる。


 みな、談笑している。ってか、永倉や原田など、馬鹿笑いしている。それをききながら、着物袴を脱ぎ、幕末の洋装を着る。


 スーツを着たのは、ずいぶんと昔のように思える。鑑識課でもハンドラーの制服は、スーツよりはるかにラフである。機能性重視だからである。


 それでも、ほぼ現代とおなじ。ある一つをのぞいては苦もなく着用できた。 

 問題のその一つも、俊春を信じ、かれとおなじようにナッシングにすることにする。


 うーむ、これではまるで、昔、流行った健康法みたいだ・・・。などと思いつつ、隣室へと戻る。



「おおっと、「馬子にも衣装」とはよくいったもんだな、主計?」


 たぶん、洋装はバシッとキマッてるはず。なのに、おれへの第一声が、永倉のそれである。


「さすが、洋装だったってだけあって、ちゃんときれて(・・・)るようだな」


 そして、原田。

 着れて、のところが、一瞬、キレてかと思ってしまう。


「ほう・・・。なにやら、まといにくそうだな」


 そして、斎藤。

 おれのキマり度には関心なく、服にしか意識を向けていない。


「ふんっ!そりゃぁ着たことあるんだったら、そこそこみれて当然だろうが。ええっ?」


 副長にいたっては、自分よりあきらか見劣りする手下てかに、無駄に対抗意識を燃やし、挑戦的になっている。


 庭にいる相棒に、視線を向ける。まぁ、こんな恰好でハンドリングしたことはないが、一応、洋服ってところで、懐かしく思ってくれるかもしれない。


 視線を感じたのか?片方の瞼が、おれの視力でみえるかみえぬほど上がる。が、すぐに下がってしまう。


 くそっ!相棒っ、おまえまで関心がないのか?



「でっ、はき心地はどうだ、主計?」


 俊冬の冷静なまでの問い。その横で、俊春がやはりきらきらしたで、こちらをみあげている。


「はぁ?フツー、そこは着心地ってききませんか?」


 別段、揚げ足をとるつもりはない。だけど、服の着心地を問うべきところではないのか、と純粋に思ってしまう。


「主計、ズボンは、はき心地と申すのではないのか?」


 腹立たしいほど冷静に返してくる俊冬。


 途端に、永倉と原田、斎藤がげらげら笑いだす。副長も、「くくくっ」と肩を震わせている。


「こいつ、このズボンってやつの下、すっぽんぽんなんだろう、なぁ俊春?」

「脱がせてやれ」

「それは、面白そうだ」


 永倉、原田、斎藤が、口々に叫ぶ。同時に、原田が身軽にたちあがり、長い腕を伸ばしてくる。


「ちょっちょちょっ・・・。だって、俊春殿がナッシングって・・・」


 原田の腕から逃れつつ、俊春を指さそうと・・・。


「え?いない?うわああっ!」


 座っていたはずの俊春の姿がない。刹那、背後をとられ、うしろから肩に腕をまわされる。


「おぬしの問いに対する答えが、ナッシング、と申したのだ。主計、おぬしのおおいなる勘違い。おぬしのモノ(・・)がどれだけご立派かは、「ふふふっ」だが、褌をしめねばおさまりが悪かろう?いかに「ふふふっ」、のモノ(・・)であろうともな。男児たるもの、ぶらぶらさせていては気合も入るまい」


「そうだよなー。俊春の申すとおり、いかに「ふふふっ」の「ふにゃふにゃ」のモノ(・・)でも・・・」


 なっ、なにいってんだ、原田?

 俊春の謎アテンションにつづき、なに謎推測してるんだ?ってか、みたことがあるのかよ?


「ちょちょちょっ、下ネタです、それ。いや、そんな問題じゃない。やめてください。完璧、セクハラです」

「ハラス?なんだそりゃ?」

「いえ、永倉先生、鮭の腹身のことではありません。ってか、そこじゃないだろう、おれ?」


 こんなときまで、自分で自分につっこんでしまう、ツッコミ役のおれ。


 あれだけ新鮮な握りを喰ったばかりだというのに、焼いたハラスが喰いたくなる。

 脂ののったそれを、そのまま頬張る。だし汁に、三つ葉を添えて茶漬けにする・・・。最高じゃないか。


 あかん、そこちゃうやろ、おれ?

 とうとう、本格的に突っ込んでしまう。



 じつは、かねてからの疑問というのは・・・。

 それは、洋装にしたときの下着、である。


 和装だと、イコール褌が自然と想像できるし、しっくりくる。が、洋装になったら、ズボンの下が褌なのか、はたまたパンツなのか、という疑問がわく。


 パンツ、といっても現代のようなボクサーパンツやブリーフ、それを合わせたボクサーブリーフ、トランクス、まさかのビキニやTバックではない。

 感覚的には、この時代のアメリカの南北戦争やゴールドラッシュを描いた、戦争物やウエスタンにでてくるような、白色のだぼっとしたものである。


 「グーOル」さんに尋ねてみたら、「グーOル」さんはすぐに教えてくれた。


 答えは、六尺褌。ズボンの下であっても、この時代はまだ褌であった。この後、それが越中褌に変遷してゆく。軍隊でも採用され、昭和に入って戦争がおわるころまで、それがつかわれる。

 現代でも、神事や医療の現場でつかわれている。T字帯も、越中褌の一種である。


 だが、やはりズボンの下に褌は、というところがあった。馬にのれば、一発で皮がめくれそうだ。まぁ、馬に乗るのは将校クラスである。将校クラスの軍服には、尻の皮がめくれぬよう、軍服にちゃんと細工が施されている。


「俊春殿、おれをかつぐなんてひどいじゃないですか?マジで、ずっと悩んでたんですよ」


 俊春が、おれからはなれる。


「あまりにも真剣であったので、ちょっとからかってみただけだ。まさか鵜呑みにするとは。その下、誠にナッシングなのか?」


 かれは苦笑とともに、おれの下半身を指さす。


「では、あらためて「ふふふっ」を拝ませて・・・」

「ちょっ、いいかげんにセクハラ行為はやめてください、原田先生。訴えますよ。それに、「ふふふっ」てのは、なんなんです?だいたい、おれのは・・・」


 原田に詰め寄りつつ、原田の体越しに相棒が起き上がっているのがみえる。


 視線があう。


「はあー」


 頭部をふりふり、おおきな溜息が、口吻からもれる。


 相棒、下ネタで騒ぐ中学男子を、呆れかえってみてる女子中学生みたいな、そんな表情かお、やめてくれ・・・。

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