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「Miburo 14」

 夕刻、局長が戻ってきた。

 山崎や林をはじめとした怪我人たちは、おとなしく眠っているという。


 今回のミッションに、局長も参加したがったのはいうまでもない。

 が、局長が不在だと、隊士のだれかが不審に思うだろうし、不安にもなる。


 予定通りのメンバーでおこなうことになる。


 そして、偵察にでていた双子も戻ってきた。


 あまりうれしくない情報ねたを携えて・・・。


 宿の使用人たちには、誠に申し訳ないことであるが、副長が、かれらの部屋を自室にしてしまってる。


 結局、使用人たちに、布団部屋で寝起きさせてしまっている。


 これもあと一日。申し訳ありません、と心中で謝罪する。


「幕府の御用金を奪え」・・・。

 B級映画にでもでてきそうな、ミッションである。


 そのミッションに挑戦するために集まった、「Miburo 14」。


 これは、アイドルグループの名前ではない。

「ワーナー・ブOザーズ」のカジノの売上金強奪計画に挑む、犯罪グループの映画のパクリである。


「それで、探りはどうだった?」


 副長が、双子を促す。

 俊冬は、四本しか指のないほうの掌で形のいい顎をさすりながら、にっこり笑う。


「いいほうの報告と、悪いほうの報告。どちらからさきに申しましょうか?」


 いたずらっ子のような笑み。


 よくあるパターン。たいてい、どっちもよくないってやつ。


「ああ?なら、いいほうからきこうか?」

「では・・・。大坂城の蔵のことは、敵もしっております。否、敵の一部と申したほうがよいでしょうな」


 あぁそれなら、おそらく薩摩であろう。

 西郷が、軍資金のたしにするつもりであてにしてたっぽいことを、だれかのブログかなにかの資料でみたことがある。


 大坂城に金子などがあるってことは、トップシークレットだったわけじゃない。金額や、どういうものがあるかという詳細は、「公表しておりません」のスタンスを貫いていたかもしれないが。


 敵だけでなく、いろんな人が見積もっていてもおかしくない。


 遠くから遠征している長州、さらに遠い薩摩。

 どちらも、喉から掌がでるほど欲しいはず。


「ほう・・・。主計が、それっぽいことをいってたな。薩摩っぽが欲しがってる、と」

「おっしゃるとおりです、副長。先日から、残存兵が城の各所に火を放っているのを、薩摩は間諜によってしったようです。本隊の大坂城到着に先駆け、御用金奪取の隊を送り込んだようです」


「なんだって?」


 いっせいに叫ぶ。


「くそっ!盗人は、おれたちだけじゃねぇってわけだな?でっ、悪いほうのしらせは?」


 俊冬もまた、永倉のようにトラブルが好きである。いや、そんなかわいいもんじゃなく、「絶対的窮地」、「完璧破滅」ってシチュエーションに萌える、じゃなくって燃えるタイプである。


 このときも、にやにや笑いつつ、さらりといってのける。


「その隠密盗賊団を率いているのが、「人斬り半次郎」と村田むらた篠原しのはら・・・」

「ええっ?「人斬り半次郎」だけでなく、村田新八むらたしんぱち篠原国幹しのはらくにもとまで?それって、西郷の子飼いの・・・」


 そこまでいいかけ、なるほどと納得する。


 村田新八。西郷に兄事し、国許で西郷が流罪になった際には同様に遠島に処せられている。そして、ずっとさきに起こる西南戦争で、ともに死ぬ。

 かれについては、個の武勇より集団の指揮の記載がおおかったように思う。

 ってか、風琴をいつももちあるいてったってところが、いかなる武勇伝やエピソードよりインパクト強すぎである。


 風琴とは、アコーディオンのことである。


 篠原国幹。こちらは、文武ともに才のある、やはり西郷に兄事する人物。

 あまり有名でないのは、さきの吉井などと同様。が、武に関しては、薬丸示現流、神道無念流を遣い、弓術や馬術等、なんでもござれだったはず。


 このあとにおこる、上野の彰義隊攻めで武功をあげ、いっきにブレイクする。


 こちらも、西南戦争で西郷とともに戦い、戦死する。


 新政府軍は、西郷を東征大総督府の参謀とし、このあと江戸へ攻め上るが、「人斬り半次郎」こと中村半次郎を一番小隊長、村田新八を二番小隊長、篠原国幹を三番小隊長となって東海道を進むわけである。


 その隊長たちが、盗賊団を率いてくる・・・。


「新八、おまえの名前とおんなじだな?」


 原田である。にこにこ笑いながら、永倉の肩を拳でっついている。


「ああ?新八なんざ、どこにでもある名だろうが、左之」


 かえす永倉は、原田の肩を頭で突っつく。いや、頭突きか、それ。


 いや、そこじゃない。そこじゃないはず・・・。


「小野さんはそのことを予見し、新撰組おれたちにおしつけてきたってことはねぇよな、俊冬?」

「副長、おそれながら、新撰組われわれにこの話をふってきた時点で、すばらしい厄介ごと、というわけです」


 俊冬は、にやにや笑いがとまらないらしい。そして、俊春も。


 新撰組うちって、こんな損な役回りしかまわってこないけど、ド派手でド迫力アクションが大好きだから・・・。


 ま、いっか・・・。


 そのとき、子どもの、具体的には泰助の泣き声と複数人の大人の怒鳴り声が、部屋に飛び込んできた。

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