名作の「あのアレの衝撃シーン」
真冬・・・。
もっふもふの子犬、それからプリティな子猫たちが、われさきに布団にもぐりこんでくる。
みんな、おれにくっついて眠りたがる。子犬たちは、胸にのっかって、すやすや寝息をたてている。
なんてかわいいんだ。なんてあったかいんだ。
「お、重っ・・・」
至福。幸せな気分で瞼を開けると、胸の上に・・・。
「ぎやあああーーーー!」
馬面が、リアル馬面がああああっ!
重い、身動きが、身動きが・・・。
「まったく、朝っぱらからやかましいのう、主計?わたしの可愛いお馬さんにむかって、「ぎやあああ!」とは、いったい、なにごとだ?」
声が降ってくる。
焦点を合わせると、安富と相棒が、見下ろしている。そして、「宗匠」も。
胸の上で、いまだ「豊玉」が馬面をのせ、はむはむしながら眠っている。
これは・・・。もしかして、昔、再放送でみた「ムツOロウの動物王国」か?
馬の小便を呑む、的な?
そうだ。
昨夜、副長と双子と打ち合わせをおえてから、双子と一緒に相棒の様子をみにきたんだった。
それから・・・。
「「豊玉」に抱きつくなり、そのまま眠ってしまったのでな。ゆえに、馬たちと兼定と、双子とともに、あたためあいながら眠ったというわけだ」
安富のにやにや笑いをみつつ、「あたためあいながら」というフレーズを口中でリピートする。
「ちょっ、安富先生、なにかされませんでしたか?」
寒気がする。これはなにも、真冬の早朝だからってわけではないはず。
「なにかされませんでしたか?それは、どういう意味で申しておる」
安富の乗馬用の鞭が、「ひゅんひゅん」と鋭い音を立てている。
たしか、「宗匠」は叩かれるのがきらいといっていたような・・・。
ってか、重い。
頭、「豊玉」、頼むから、その頭、どけてくれ・・・。
ギャング映画の名作中の名作「ゴッド・Oァーザー」、あの衝撃のシーンが脳裏をよぎる。
「双子に、直接きけばよかろう?なぁ、兼定、「豊玉宗匠」?」
そこ、二頭を同時に呼ぶときには、一気に呼ぶのか?
「豊玉宗匠」、と。
「さぁ邪魔だ、どいてくれ」
寝ているおれの腕やら脚やらを、鞭で容赦なくぶつ安富。
早朝のきれるような寒さに、ピシッ、ピシッ、と鋭く響く。
「痛いっ!痛いですよ、安富先生。どきたくても、「豊玉」の頭が重くて起き上がれません。ってか、「宗匠」、脚ーっ、蹄のさきがおれの脚にのってるーっ!ってか、相棒、なんで尻をおれの頭の上にのっけてる?お座りするのに、わざわざおれの頭の上でするか、ええ?」
「朝っぱらから、なにやってんだ?馬鹿たれっ!」
「うわっ、主計さん、犬と馬に踏みつけにされてるね」
「主計、蓆の上で動物相手に寝るなんざ、おまえらしいな」
「おほっ、才輔の竹根鞭の鋭い痛み、けっこう、いいだろう?」
副長、泰助、永倉、原田の声が、上から落ちてくる。
局長や斎藤や島田も子どもたちも、白ーい瞳でみおろしている。
「さぁさぁ、どいてあげような」
なにゆえか、鞭をつかわず、馬たちを誘導する安富。
馬フェチの安富に、馬に対する鞭など必要ない。
対人用だとか・・・。
竹根鞭細工は、近江、つまり、滋賀県のブランドで、その名のとおり竹でできている。
喜劇王「チャッOリン」のトレードマークであるステッキ、あのステッキは、じつは竹根鞭細工なのである。
いまの原田の言葉・・・。なんかひっかかる。
それは兎も角、泰助も元気になっている。
よかった・・・。
で、深更、いったいなにが?おれに、いったいなにが・・・。
しれず、腰から下に痛みや異変がないか、チェックしてしまう。
「おはよう!」
そのとき、朝の静謐をやぶりまくるばかりか、空気をよまぬ男がやってきた。
熱き海の男、こってこての江戸っ子、油ギッシュ釜次郎こと榎本艦長である。
「ちっ、朝っぱらからうざい野郎がきやがった」
副長のつぶやき。
(だーかーらー、これからずっとお付き合いするんですってば)
つい、心中でリプッてしまう。