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おんぶ

 相棒が顔を上げ、耳をぴくぴく、鼻をひくひくさせはじめる。


 敵がいた方角。いまは、爆発によって焦土と化した方角・・・。


 一瞬、緊張したが、相棒が尻尾をはげしくふりはじめたので、異常や危険な状態ではないと緊張をとく。


 しばし間を置き、闇にシルエットが浮かび上がる。


「旦那?どうされたんです?」


 鳶の驚きの声。

 安富が、松明を掲げもつ。


 ほのかな明かりのなか、俊冬があらわれる。


 背に、俊春を負っている。俊春は、ゲベール銃を握っている。


「無事でよかった」


 おれたちに視線をはしらせ、俊冬はほっとしたような表情かおでつぶやく。


 その俊冬の声に、心から安堵する自分がいる。

 あれだけいじられてるのに・・・。


「俊春殿、どうしたんです?」

「いや、なにもない。昔、よくこうしておぶってやった。ひさしぶりに、やりたくなっただけのこと」


 おれの問いに、俊冬がわけのわからぬ返答をする。


 えっ?いま、ここで?このときに?なにゆえ?


 さらなる疑問がわく。


「兄上、もうおろしてください。みっともない」


 そのとき、俊春が抗議する。


 が、その声が、いつもと違うような気がする。


「二人とも、なんともないのだな?」

 安富も、なにかを感じたのであろう。念を押す。


「山崎先生は?」

 そして、さりげなくそれをスルーする俊冬。


 背からおりた俊春とともに、山崎のそばに膝をおる。


 その俊春の相貌かおに、鼻をおしつける相棒。


 なにかがひっかかる。


 が、ときがない。そのなにかを振り払い、山崎の状態を告げる。


 俊冬が、山崎の左下腿、それから、左側の脚の甲をチェックしながら山崎に質問する。


「兎に角、ここではなにもできぬ。敵は、追ってこれぬようにした。が、本隊が、すぐちかくまで迫りつつある。一刻もはやく、城に戻ったほうがいい」


 山崎を「豊玉」に乗せ、俊冬が同乗する。

「宗匠」には、安富と鳶が。


「さきに戻る。俊春、二人・・を任せたぞ?できるな?」


 俊冬が鞍上から声をかけると、俊春は無言で頷く。


 おかしないい方だ、と。ここでも、なにかがひっかかる。



「パカッパカッ」


 二頭は、雪で濡れた地を駆けてゆく。


 そのシルエットが、掌にもつ松明の灯の届かぬところへ消えた。


 俊春に声をかけようと、そちらへ視線を向ける。


 その俊春の脚下に、相棒がいる。かれを、み上げている。


 俊春は、背後が気になるようだ。こちらに背を向け、敵のいた方角に注意を払っている。


「あの・・・。俊春殿、ほんとに大丈夫ですか?」


 しばしの間・・・。


「おぬし、いつも大丈夫かと尋ねるが、大丈夫でなかったら、いかがするつもりだ?」


 そんな憎まれ口がかえってきて、内心、ほっとする。


 どちらからともなくあるきはじめる。

 相棒は、俊春の左脚下からはなれようとしない。


 ま、いいけど・・・。


 どうせ、俊春のほうがやさしいし、気がきくし、気持ちがわかってくれるし・・・。


 いいんだ、いいんだ・・・。




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