Hollywood at the end of Edo!
だが・・・。
「わわっ!あ、あれ」
鳶が指さすのは、天。
真っ白な雪が落ちてくる先・・・。
砲弾が、上空をぐんぐんのぼってゆく。
さしておおきくもない砲弾なのに、戦争映画をみているかのようにみえる。
「退避っ!退避っ!」
「ひいいっ」
「逃げろっ!落ちてくるぞっ」
兵士たちの悲鳴。隊長の指示は、兵士たちの悲鳴にかき消される。
もう一門のアームストロング砲から発射された砲弾。それが、敵兵たちの頭上を上昇しているのである。
発射された際の勢いがなくなれば、それはそのまま地上へと落下する。
その昔、ニュートンが、木からリンゴが落ちるのをみたように。
もっとも、このリンゴの破壊力は、半端ない。
俊春である。
かれは、敵がもう一門に注意を奪われている間に、いっきに間を詰め、ぬかるみを利用してスライディングし、発射直前に砲身を蹴り上げたのである。
蹴り上げられた砲身は上を向き、同時に発射された。
もっとも、この「ジャッキー・Oェン」の映画のごときアクションは、あとでしったことである。
ときにすれば数秒。みえるわけもない。
またしても、双子の三次元の活躍・・・。
敵の小隊は、アームストロング砲などほっぽりだし、駆けだしている。
「主計っ!乗れっ」
そのとき、まえから「豊玉」と「宗匠」が駆けてきた。
安富は、「豊玉」が並足でまだ動いているうちから飛び降りる。
安富、鳶とともに、山崎を「豊玉」に抱え上げる。
安富は「豊玉」に、おれと鳶は「宗匠」に、それぞれ飛びのる。
「相棒っ、走れっ!」
二頭の馬と相棒が、同時に駆けだす。
うおーっ!まるで、ハリウッド映画だーっ!
手綱を握り、興奮してしまう。
砲弾があのまま落下したら、発射されなかった大砲の砲弾も爆発するだろう。
もしかすると、ほかにも砲弾を準備していたかも。
誘発し、どのくらいの範囲が吹っ飛ばされるのか?
さいわい、このあたりに民家はなく、人間どころか犬猫鳥の気配すらない。
どこまで駆ければいいのか?
ん?そういえば・・・。
「安富先生、俊冬殿は?俊冬殿はどうされたのです?」
ガチハリウッドシーンに酔いしれ、いまさらながら双子のことに思いいたる。
「砲弾が地に落ちても、不発に終わるやもしれぬ。そうなれば、逃げ散った敵が戻ってき、またぶっ放すやもしれぬ。兎に角、わたしたちはできるだけ遠くへ逃げろと申し、銃を担いで「宗匠」より飛び降り、駆け去ってしまった」
安富の説明に、さすがだと納得する。
「主計、あの者たちはいったいなんだ?」
馬蹄に負けず、声を張り上げる安富。
いったいなんだ?
事情をよくしらぬ安富が、驚くのも無理はない。
「旦那方は、ちょっとかわった武士ですよ」
答えを考えているうちに、うしろにいる鳶が大声を張り上げる。
「旦那方は腕がいいのにもかかわらず、奢らず、他人を貶めず、いっつもだれかの為に働いてる」
「鳶さんのおっしゃるとおりです。くわえて、おれをいじるのがうまい」
安富も鳶も笑う。自虐ネタ、ここでも手応えを得る。
いや、ちがうな、これ・・・。
そのとき、背後で爆発音がおこった。
アクション映画のサラウンド感満載、ド派手な爆発シーンを思えば、さほどおおきな音ではない。
爆風で、馬ごとぶっ飛ばされることもない。
それでも、「豊玉」も「宗匠」も、怯え、脚を止めてしまう。
うしろを振り返ってみる。
暗がりに、白い雪が舞い散っている。
劫火が天に舌を伸ばしていたり、つぎからつぎへと爆発がつづいたり、といったことはない。