アームストロング砲 VS.「狂い犬」
「いかがいたした?撃たぬのなら、遠慮なく、こちらからゆかせてもらうぞ」
俊春の怒鳴り声は、あきらかに敵をびびらせたようだ。
恐怖に耐えきれず、引き金をひいてしまった兵がいる。
なにかが起こったとしても、この体勢からではみえない。ってか、すぐ横でガン見してても、わからないであろう。
兎に角、三発の銃声が鳴り響いたときには、俊春は三発の弾丸をどうにかしたはず。
「村正」で弾丸斬りしたか、超神速でよけたか、掌でつかんだにちがいない。
またしても訪れる静寂。
かれが、敵の注目を集めてくれている間に・・・。
陸自の隊員も、「グッジョブ!」といってくれそうなほどの速さで匍匐前進。掌を伸ばし、山崎の肩をつかむ。
相棒も、鼻づらを伸ばし、山崎の袂を噛む。
鳶は、おれたちとは反対側の山崎の肩をつかみ、同時にひきずりはじめる。
前方より、ごろごろとなにかを転がす音がきこえてくる。山崎をひきずりながら、また相貌をあげてみると、敵の陣頭にあらわれたのは大砲。
アームストロング砲・・・。
しかも二門。長州征討で苦しめられたその武器を、いまやその長州も活用している。
長州は、幕府だけでなくイギリスやアメリカ、オランダといった諸外国連合軍と下関で戦い、負けている。
どこよりも異国を知り、その強力な武器の威力を身をもってしっている。
ゆえに、それを取り入れることにも積極的なのである。
そんな悠長なことに、思いをはせている場合ではない。
大砲までもちだしてくるなんて、どんだけ「狂い犬」を怖れてるんだ?
って、一発ぶっ放されれば、この辺り一面吹っ飛ぶ。土嚢など関係ない。
砲手が、手際よく準備をすすめる。
実際は、弾を砲身にこめてから点火するまで、さほど時間はかからないのだろう。たしか、それまでの大砲より時間が短縮された、となにかでみた気がする。
俊春は、砲弾までぶった斬れるのか?アニメのほうの「石川O右衛門」みたいに?
あれ?アニメで斬ったことがあったか?
いや、そもそもそこじゃない。
焦燥のなか、またしても音が。
相棒の鼻面が、うしろへと向く。同時に、耳が動き、尻尾が雪で濡れた地を掃く。
もちろん、いまは「尻尾が汚れるから、やめなさい」、なんてこといってる場合じゃない。
馬蹄・・・。
あたりは暗くなり、雪が舞い散るなか、薄暗い一角がきりとられ、そこから躍りでてきたのは二頭の騎馬。
新撰組のマスコットキャラクター?なのか?いつの間に?
兎に角、「豊玉」と「宗匠」である。
その鞍上には、馬フェチの安富。そして、「スーパー・ゴーイング・マイウエイ」の俊冬。
俊冬は鞍の上に片膝つき、射撃体勢に入っている。
すでに、砲手は砲身に砲弾をこめ、引き綱のついた摩擦チューブを点火口に挿入しているであろう。その引綱をひっぱっることで、点火口内の火薬が発火し、装薬を爆発させ砲弾が発射されるのである。
地面に寝そべった姿勢でも、二名の砲手が引き綱を握り、隊長だか指揮官の命令をまっているのがみえる。
「豊玉」と「宗匠」が、すごい勢いで横を通過してゆく。
その瞬間、「撃-っ!」、と発射指示の号令がかかる。
「ぱーんっ」・・・。
号令がおわるまでに、銃声が轟く。
右側の大砲の引き綱をもつ砲手の一人が、その場より吹っ飛んだ。
そして、左側の大砲は・・・。
銃弾よりも、重くかわいた音。だが、想像しているよりかはちいさな発射音。
ついに、ついに大砲が火を噴いた。