山崎 失踪!
たたき起こされ、寝とぼけた状態の隊士たち。疲れ切って瞳をさまそうとしない子どもたち。
兎に角、新撰組御用達の宿に向かうため、順次、重い体を引きずりながら移動を開始する。
「副長」
子どもらをどうするか・・・。
荷車に乗せ、「豊玉」と「宗匠」に引っ張ってもらおうか、と話をしているところである。
久吉が、文字通り泡を喰ったように駆け込んできた。
「行方不明の隊士が数名到着しまして、まだ、動けぬ隊士がいるらしく・・・。それをきいた山崎先生が、様子をみに・・・。鳶さんを連れ、いってしまわれて・・・」
久吉は、荒い息とともにいっきに報告する。
「なんだと?くそっ!敵がすぐそこまできてるってのに?」
副長は歯ぎしりしつつ、拳を廊下の壁に叩きつける。
「副長、おれが相棒と追います。相棒の鼻で」
「なら、新八と左之も連れてゆけ」
副長がいうと、永倉がすぐに反応する。
「よし。おい、左之っ、ゆくぞ」
永倉が、部屋のうちにいる原田に声をかけようとし、脚許がふらつく。
当然である。手下を指揮しながら、あるいは、護りつつ戦場を駆けまわり、京から大坂へ。
その間に、井上の死に目にあい、心身ともに疲弊しきっているはず。
それは、原田も同様である。
それに応じ、部屋のなかからでてきたが、こちらもふらついている。
「おめぇらは、大広間にいって怪我人安心させてこい。斎藤がいるはずだ」
副長は、その様子をみてはっとしたようである。
掌をひらひらさせながら、二人を追い払う。
言葉も態度もぶしつけだが、気遣ってのことである。
「副長、わたしがまいります」
そのとき、俊春がちかづいてきた。
局長と俊冬とともに、置いてけぼりをくらった老中に会いにいったはずなのに。
三次元的な感覚でもって察知し、戻ってきてくれたのであろう。
「おめぇも・・・」
副長がいいかけ、思い直す。
「俊春殿がいってくれるのでしたら、安心です」
「いや、主計、おめぇも限界だろうが・・・」
「いいえ、いかせてください。おれは、たいしたことをしていません。山崎先生になにかあれば・・・」
これ以上、だれも傷ついてほしくない。
井上のときのように、歴史を容認したくない・・・。
「たのむ」
おれのオーラが、副長をもひかせてしまったらしい。
ただ一言だけ。
俊春とおれの肩を叩き、送りだしてくれた。
150年先とはまったく違う、内装の城内。
とはいえ、でかいというわけではない。広さ的には、おそらく、改築した未来のほうが広いはず。
大広間に、怪我人が集められ、寝かされている。
医師だけでなく、武士も中間や小者も関係なく、バタバタしている。
「主計、俊春」
その大広間を通りかかったとき、呼び止められた。
あゆみをとめ、なかをのぞきこむ。
林が、そろそろとちかづいてくる。原田と島田に、両脇から支えられながら・・・。
そのうしろには、永倉と斎藤もいる。
林は、あきらかに具合が悪そうである。
島田らとともに先行していたので、相貌をみていなかった。
ええっ、いったい、いったいなにが?
心臓が高鳴る。
頭のなかが、真っ白である。