表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

380/1255

「ながあああああああああい、お付き合い」のはじまり

「兼定です」


「ほう・・・。刀か?なるほど、たしかに、鋭そうだ」

 榎本は、相棒に視線を戻しつつ、うんうんと頷く。


(名付けた理由は、そこじゃないんですー)


 まさか、副長ファンで、その佩刀からとった、なんてこと・・・。

 それこそ、副長にBLチックな感情を抱いていると、勘違いされてしまう。


 つい先日、ああ、あれはつい先日だったのか、ずいぶんとまえのように思えるが・・・。


 兎に角、伊庭のこともある。これ以上、腐隊士と思われるのは、遺憾である。


「やだー、とっくの昔にバレバレじゃん、と申しておる」

「ホワァァァァァァット!」


 耳に囁かれ、思わず、英語圏のどこかの国の政治家みたいに叫んでしまう。


「な、なんで女子高生口調なんだ、相棒っ?」


 そこじゃない、とわかっていながら、そうやりかえさずにはいられない。


「やだー、バレバレじゃん。やだー、バレバレじゃん」


 無表情で繰り返す、相棒の代弁者俊春。


 な、なんか怖い・・・。


 兎に角、そんなことよりも、榎本の勘違いを訂正すべきか?それとも、榎本がそれでいいのなら、それでいいのか?


「あんた、いってぇだれだ?おれたちは、急いでる。付き合ってる暇はねぇんだがな」


 そんなおれの葛藤などおかまいなしに、またしてもイラチの副長の横槍。


「局長、副長、この御方は、幕府軍艦頭にして「開陽丸」の艦長榎本武揚殿でございます」


 俊冬は、なりゆき上仕方ないっぽい雰囲気を醸しだし、紹介する。


「釜次郎殿、こちらは新選組局長近藤勇殿、副長の土方歳三殿、二番組組長の永倉新八殿、三番組組長の斎藤一殿、十番組組長原田左之助殿」


 メンバー紹介に、榎本は勢いよく立ち上がり、こちらに向き直る。


「犬は、さきほど紹介のあった兼定・・・。それから・・・」


 俊冬の視線が、ひととおり巡り、おれにとまる。


 しれず姿勢を正し、紹介をまつ。


「以上っ!」


 ピシャッと音がしそうなほど、きっぱりとしめくくる俊冬。


「ちょっ、なにゆえ?なにゆえ、おれは紹介してくれぬのです?」


 イジメだ。これは、ごまかしも抗弁もできないほどはっきりしている職場内のイジメ。

 こんなイジメ、あっていいものか?


 倫理委員に訴えねば・・・。コンプライアンス室に駆け込まねば・・・。


 気に病み、体調不良から退職、あるいは、悲観して・・・。という事態に陥ってはいけない。絶対にいけない。絶対に・・・。

 


 そんな想い、訴えも、新撰組ここでは無用の長物。


 プッと、一番最初にふきだしたのは、斎藤である。それを合図に、みな、大笑いしはじめる。局長、それから副長も。


 みな、涙をながし、笑っている。

 ひさしぶりにみる笑顔・・・。


 イジメられて、いじられて笑いをとる。ビミョーな感じである。


「新撰組の役立たず隊士、相馬主計です」


 こうなったら、自虐ネタを炸裂させるしかない。


 みずから自己紹介しつつ、榎本に掌を差し伸べ握手を求める。


「おお?あ、ああ、ああ・・・。榎本武揚。釜次郎って呼んでくれ。主計さんよ」


 榎本は、握手をしつつあきらかひいている。


 その鼻の下で、カイゼル髭がぴこんぴこんと踊っている。


「あの・・・。上様に謁見されるのでしたら、「開陽丸」に戻られたほうが・・・」


 いいかけたおれの襟首が、むんずと掴まれる。うしろを向く間もない。そのまま、まるで漫画みたいにひきずられてゆく。


「榎本殿、しからば御免。そのうちまた、酒でも」


 空をみあげた恰好でひきずられつつ、局長の大音声をきく。


「おいおい、せっかちな連中だなぁ」


 江戸っ子の呆れかえったような声も・・・。


 さすがに、数メートルでひきずられ状態から解放される。


「まったく、相手にすんじゃねぇ」


 ひきずりまわしてくれたのは、副長である。


 肩を並べると、そんな憎まれ口をたたいてくる。


「ああいうお調子もんは、油断ならねぇ・・・」

「え?ご存じだったのですか?」


 へーっと思いつつ確認する。


「なわけないだろうが、ええ?」

「はぁ?知り合いでもないのに、なにゆえそこまで?」


 驚きである。


「ああいう西洋かぶれの、これみよがしに洒落者ぶってるやつぁ、ろくな奴じゃねぇ」

「はい?」


 副長の「気にいらねぇ」センサーに、ひっかかってしまったと?

 いかなるものでもキャッチしてしまう、優秀なセンサーに?


 もっとも、どういう基準かは不明である。


(副長、榎本さんとは、「ながあああああああああい、お付き合い」、になるんです。邪険にしないほうが、いいと思いますが・・・)


 京都の地銀、「京O銀行」のCMのフレーズを、心中で叫んでみる。

 ああ、これも「YOUTUBE」で視聴可能である。


「ああ?なんだと?」


 心の叫びは、さすがの副長でもきこえぬらしい。


 かれらの腐れ縁のはじまりは、はじまったばかりである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ