大親分と埋葬場所
だが・・・。
相棒が、尻尾を激しくふる。
それこそ、空気を薙ぎ払う勢いで。
「副長、すくなくとも敵ではなさそうです」
報告するまでもなく、全員が相棒の様子に気がついている。
「俊冬?それに、会津の・・・」
ややあって、あらわれた集団。
原田の呟きどおり、一団の先頭にいるのは、俊冬。
そのうしろの駕籠は・・・。
「土方っ、無事だったか?」
駕籠がとまるなり、なかから飛びだしてきたのは、会津の小鉄。
京を牛耳る極道の大親分と、その子分たち。
「大親分?」
さしもの副長も、このサプライズに驚いている。
「おおっ、兼定っ」
そして、相棒好きの若頭は、あいかわらず相棒にメロメロである。
「こいつらに、戦になったら掌を貸してくれって頼まれてたからな。ついに、お呼びがかかったってわけだ」
大親分は、掌を俊冬へと向ける。
双子は、任侠とも知り合いってわけだ。
いや、ちょっとまてよ。
以前、「あのトーマス・グラバー」に会いにいったかえり、見廻組に追いかけられた。その際、会津の小鉄に助けられた。
俊春はいなかったが、俊冬は仙吉という名の「元極道」としてめっちゃいた。
あのとき、会津の小鉄や子分たちは、わかっていてそしらぬふりをしたのか。それとも、気がつかなかったのか・・・。
この際、どうでもいいことか・・・。
「淀のほうで、幕府軍の戦死者がでてるってんで、弔いにきた。おまえたちは、一刻もはやく大坂へゆけ」
「大親分、恩にきます」
副長は、背に泰助を負ったまま深々と頭を下げる。
副長でも、すごい男には敬意を払うんだ、と妙に感心してしまう。
「子分を連れてくか?いや、この面子なら、子分のほうが足手まといだな」
「ありがとうございます。お気持ちだけ・・・。おめぇら、ゆくぞ」
副長につづき、おれたちも一礼する。
「縁があったら、また会おう」
大親分の心からの言葉。心に沁み渡る。
「兼定、またな」
相棒も、若頭のムギューッが身に沁み渡っているだろう。
「副長」
あるきはじめると、俊冬が副長に並んでアイコンタクトをとる。
副長が頷くと、俊冬は副長の背でまだヒックヒック泣いている泰助に、やさしく声をかける。
「叔父上の遺体と愛刀は、欣浄寺という寺に手厚く葬った。これは、遺髪と懐刀だ。懐刀は、泰助に、と」
欣浄寺?
これは、ウイキペディアでの「かもしれない」、である。つまり、そこに埋葬された可能性はあるが、現代でも埋葬場所はわかっていない、というわけである。
もっとも、そこでは、埋めたのは頸と刀である。
頸から下は、戦地に放置されたのだから・・・。
俊冬に、話をしたであろうか?埋葬されたかもしれない寺の名を・・・。
まぁ話していなくとも、豊後橋からちかい寺で、わけありの人間一人、埋葬できる寺はかぎられるにちがいない。
偶然であろう。
「すまぬ、泰助。叔父上を救えなかったのは、わたしの失態・・・」
俊冬の謝罪と泰助の泣き声が、静寂を乱す。
そのとき、先頭の永倉と原田があゆみをとめた。