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いかなる死であったとしても

「笑ってた。なんでだろうな?銃創は、一つか二つしかみとめられねぇ。それと、刺し傷だ。武士さむらいとして、敵に突っ込み、斬りあったんだろう。そこに俊冬が駆けつけ、敵を蹴散らした・・・」


 声を震わせ、説明してくれる副長。


 永倉が、小常さんを亡くしたときと同様である。

 ちかしい者を亡くしたとき、人によっては無性に話をしたくなったり、だれかにいてもらいたかったりする。


 肩に置かれていた俊春の掌はなく、それはいま、俊春自身のをおおっている。


「おれたちにかわって、俊冬が死に水をとってくれた。遺言いごんもきいてくれた」


 あふれる涙でよくみえないが、副長がこちらをみている。アイコンタクトで、なにかを伝えたいのであろう。


「俊冬は、最後まで添うといい、源さんをそのまま・・・・運んでった。あの馬鹿、源さんを背負い、餓鬼みてぇに泣きながら去ってったよ」


 アイコンタクトをとりながらのその言葉に、すべてを悟る。


 副長も、推測している。


 瀕死の井上を、俊冬がとどめをさした。懇願され、愛刀「関の孫六」で泣く泣く刺し貫いたのか。


 刺し傷は、斬りあいでできたものではない。銃で撃たれたじてんで、井上は力尽きたのかもしれぬ。


「叔父上、叔父上・・・」

 相棒に抱きつき、泣く泰助。


 頸をきり、それを運ぶことを思えば・・・。

 遺体は、頸が胴についたまま埋葬されることを思えば・・・。


 まだマシだと?


 いいや、そうは思わない。


「俊春、無事だったか?」


 副長が声を震わせつつ問う。

 涙のなか、華奢な肩を震わせるかれが、無言で頷く。


「源さんの死んだ場所を、みておきたい・・・」

「承知いたしました」


 みなまでいわずとも、俊春にはわかっている。

 一つ頷くと、われわれのゆくべき方向へ駆けだそうとする。


「俊春、返しておく」


 斎藤が、左腰から「村正」を鞘ごと抜きつつ俊春にちかづき、それをさしだす。


「無事でよかった」

「かたじけない」


 礼をいい、すばやく左腰に帯びる。

 それから、あっという間に、闇にすいこまれてしまう。


 助けられなかった。


 すべてを助けることはできない。わかってはいるが、それでも死んでほしくない。


 泰助や副長たちに、悲しい思いをさせたくない。


 なにより、陽に焼け、柔和な笑顔を失いたくない・・・。


 史実なんて、くそくらえだ。


 なにゆえ、井上だけが死ななきゃならない?

 かれこそ、いい意味でも悪い意味でも、なにもしていない。偉業や悪行をかさねたわけでもない。


 局長や副長、沖田や永倉や原田、斎藤といった試衛館時代の仲間たち、それから、新撰組の仲間たちの為に、身を粉にして働いていただけ、なのに・・・。


 なにゆえ?なにゆえに・・・。


 病なんて、くそくらえだ。



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