産まれたー!!
相棒は、原田親子とお勇ちゃんに尻尾をふりふり、いつもの定位置でおれをみ上げている。
「兼定もきてくれたか・・・。まっ此度ばかりは、おまえでもどうにもできぬであろうが・・・。否、かようなことはどうでもいい」
相棒をみつけた茂が、じたばたしはじめる。女の子のお勇ちゃんも、茂ほどではないにしろ、ちいさな腕と脚をばたばたさせている。
「どうも難産みたいでな。なかなか産まれぬらしい。産婆が、風邪で寝込んでるらしくってよ。七条のほうの産婆もあたってきたんだが、ほかのところにいってて、それがおわってからでないと・・・」
原田のマシンガントークに、おれだげが反応できなかったらしい。
「俊春、いそげ」
「はい、兄上」
双子は、まだ説明がおわらぬうちにいそいそとあるきだしている。
「お孝さん一人じゃ大変だろうから、いつもの産婆を無理にでも連れにゆこうかと迷っていたところだ」
「お案じめさるな、原田先生。子どもらと兼定と、しばしこれにておまちを。主計、おぬしは湯を沸かしてくれ」
「あ、ああ。恩にきるぜ、俊冬、俊春。主計、裏に薪を準備している。頼むぞ」
綱を原田の掌に握らせ、相棒にしばしまつよういいつけ、双子のあとを追う。
「でっ、あれですか?産婆の、ああ、産婆って、男性ができるんでしたっけ?」
双子の背に呼びかける。
原田に小常さんのことをいいそびれたが、いまはそんな場合ではない。
「そうだな、ちゃんとしたのはやはり女子でないと・・・。われらはもぐりだ。だが、そこいらの産婆より、数をこなしているぞ」
もぐりの産婆?医師法違反すぎる。
原田の家にずかずかと入ってゆく双子。
俊冬も俊春も、廊下をずんずんすすみながら持参の、なにゆえ持参しているかはわからないが、兎に角、懐からたすきをとりだし、てばやくたすきがけする。
「主計、厨は奥のはず。湯をどんどん沸かしてくれ」
「え、ええ・・・」
厨にいったころ、奥から双子とお孝さんの会話がきこえてきた。
それから、いっとき(約2時間)くらいできこえてきた。
「おぎゃー、おぎゃー」
という、元気な赤ちゃんの産声が。
湯を沸かしながら、ふと思いだす。
これはきっと、産湯につかうのであろう。が、現代では産湯はNGのはず。
そもそも産湯とは、生まれたばかりの赤ちゃんについた血液や羊水、粘液などをとるためにおこなうものである。
だが、体温を下げてしまう。拭くにとどめたほうがいい。
一昔前までは産湯があたりまえであったが、そういう理由から、産湯はよろしくない、とwebでみた気がする。
この際、なにゆえ出産について調べたか、は触れないでおく。
清潔な手拭いを大量に湯につけ、固く絞る。
湯をとりにきた俊春にそれを告げると、さして異をはさむことなく受け入れてくれる。
おまささんは、元気だという。もちろん、産んだことによる体力の消耗はあるが。
手拭いの追加をもってゆく。
廊下からちらりとなかをのぞきこむと、布団に寝ているかのじょと視線があう。
すると、握り拳に親指だけを立て、ガッツポーズを送ってくるではないか。
そうだ、まえにみなに教えたことがあった。
そのしばらくあと、原田が「おまさが、これを気に入ってよ。ことあるごとにやってる。アレのときにやられてみろ。なんか、満足させれたのかどうか・・・。ビミョーになるときがある」と、別件で教えたビミョーを駆使し、いっていた。
まぁたしかに、アレのときにつかうのはビミョーだが、いまのつかいかたは正解である。
ガッツポーズをかえしておく。
お孝さんが原田を呼びにいってくれる。
「うわー、お猿さん」
俊冬からそのままの姿で受けとり、思わずつぶやく。
真っ赤でちいさな体・・・。
ふにゃふにゃ泣いて、一生懸命自己主張している。
あ、ついてる。第二子も男の子。
ドラマ化もされた人気コミック、「コウOドリ」みたいだ。
丁寧にきれいに拭き、俊冬に託す。
すると、手際よくおくるみで巻く。
そこへ、原田がやってくる。
感動的な父子のご対面・・・。