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団子

「伊東さんは、なにがやりたいのかね?」


 永倉が、皿の上に残っている最後の一つに掌を伸ばす。


 その掌を、『ぱちんっ!』と室内に響き渡るくらい音高くしっぺしたのは、原田である。


「なにしやがる、左之っ!」

「おまえ、すでに割り当ての分は喰ったろう、えっ新八?」


 原田の冷え切った声に、永倉は一瞬ひく。が、それでへこたれる「がむしん」ではない。

 かわりにそれを掴もうとした原田の掌を、反対に殴り飛ばす。

 しかも、拳にして、である。


「いてえっ!掌の骨が折れちまうだろうがっ、新八?」


「やかましいっ!」

 ついに、この部屋の主の怒りが爆発する。


 床机に積み上げられた書類を一心不乱によんでは、署名を繰り返している副長がきれる。


「だってよ、土方さん」

「けどよ土方さん」


 永倉と原田の抗議がかぶる。


 副長の眉間の皺が、濃くなる。


「おめぇら、なんだってわざわざおれの部屋にきて、そんなもん喰いちらかしやがる?挙句の果てに、喧嘩までおっぱじめやがって。おれが忙しくしてるのが、みえてやがるのか、ええっ?」


 さすがは「鬼の副長」である。


 これが平隊士であったら、びびって逃げだしたであろう。


 あぁそれ以前に、呼ばれもしないのに、副長の部屋にやってこないだろう。


 副長の部屋のまえの廊下すら、あるく者はいない。


「だってよ」

「けどよ」


 またしても、幹部二人の抗議がかぶる。


「喧嘩両成敗だ。主計、喰っていいぞ」


「土方さん、そりゃねぇよ」

「土方さん、そりゃ殺生だ」

 

 さらに、かぶる。


 それがおかしくておかしくて、とうとう笑ってしまう。


 それにつられ、副長も笑いだす。そして、当人たちも。


 京でも女性に大人気の京菓子屋に、盗人が侵入た。そして、有り金すべてを奪ってしまった。

 現代でいうところの、大人気の和菓子屋である。


 口コミNO1.、食べログでも紹介され、つねに店のまえに行列ができているような・・・。


 webもTVCMもない世界において、つねに行列ができているほどだから、相当なものなのであろう。

 これぞまさしく口コミ、で繁盛しているわけである。


 現代の銀行と違い、金子を預けるにも預け賃がいる。

 しかも、そういった両替商や資産投資もすくない時代。


 預けたり投資をすることもなく、金子がそこにあるのは、当然のことであろう。


 昔話にでてくるような、壷や瓶に入れて床下に隠しておくのがメジャーなのであろうか。兎に角、菓子屋の主は、たっぷり隠していた。しかも、便所、もとい厠のなかに。


 わかるであろうか?便所も水洗ではない。当然である。ぼっとん便所。そのなかに、隠しておいた。

 なか、というのは現代でいうところの便器にあたるところである。

 

 男所帯で男臭い新撰組だが、酒好きばかりではない。いわゆる、辛党ばかりではない。

 甘い物好きもおおいのには驚いた。酒好きだが、甘い物もいける、という者もすくなくない。

 監察方の島田などが、その筆頭である。


 だれかがその窃盗事件をきいてきた。


 このような事件は、新撰組うちの管轄ではない。が、非番でうろうろしていたおれと相棒が、その話で盛り上がっているところに、たまたま通りかかった。


 でっ結局、協力することになった。まあ、これが本職といえば本職だし、たまには相棒にも昔取った杵柄の気分を味あわせるのもいいであろう。というよりかは、腕ならぬ鼻を鈍らせない為にも、ちょうどよかった。


 が、予想に反して、犯人ほしはあっさりみつかった。遺留品を残していた。よほど慣れていないのであろう。裏木戸をこじ開けた際に使用したくぎ抜きを、その場に放り投げていた。


 相棒は、遺留品のにおいをたどり、犯人ほしが潜伏している茶屋に、おれたちを導いた。


 犯人ほしは、攘夷志士気取りの連中であった。正確には、その連中は雇われていた。

 黒幕は、菓子屋の番頭である。そもそも、そんなところに隠していることをしっている者じたい、ごくわずかである。

 消去方法でも、すぐに解決したであろう。


 それは兎も角、店の主はいたく喜んでくれた。

 今後、新撰組の隊士には、店の品をサービスしてくれるという。

 そして、お土産にと、団子をいやというほどいただいた。


 ああ、これは現代では賄賂にあたる。いうまでもないことであるが。


 というわけで、その最後の一本を巡って、永倉と原田が喧嘩しているわけである。


「土方さんの部屋、風通しがよくって気持ちいいんだよな」

「そうそう。それに、土方さんも、たまには団子喰うくらいの余裕があってもいいんじゃないのか?」


 永倉と原田は、そう嘯く。


 わかっている。二人は、すべてを背負い込み、昼夜なく働いている副長のことを、心配しているのである。


「そうか・・・。なら、その最後の一本はおれがもらおう。鉄っ、茶をもってきてくれ。ぬるすぎず熱すぎず、濃すぎず薄すぎぬ茶だぞっ!」


 昔からの仲間二人の気持ちは、副長もよくわかっている。


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