「新遊撃隊」
それにしても、ゲロ佐川はすごい。
この夜、残る四剣士たちが、正体不明になるまで呑んだゲロ佐川を、田中が準備した駕籠まで運んだ。
どんだけ酒で失敗するのか?
こんなときでも、これほど酔いつぶれるのだ。
プライベートのときなど、どうしてるんだろうか・・・?
気がついたら駅や公園のベンチで寝ていたとか、路上でねていたとか・・・。
まぁ幕末だったら、あぜ道や土手から滑り落ちてしまうとか、肥溜めに落っこちるとか・・・。
後者だったら、ゲロ佐川ならぬクソ佐川になってしまう。
どこまで覚えていて、どっから記憶がないのか・・・。
さきほども、途中までは和気あいあいと笑顔で呑んでいた。が、途中からけっこうきわどい不平不満をぶちまけていた。
田中や局長を「おい」呼ばわりし、「ふざけるな」とか「なめるな」といいながら一席ぶっていた。
さすがはフリーダム会津。
「酒の席だから」的に、忘れ去られるのであろう。
じつはこの宴のまえに、田中は局長と副長に会津候からの言伝を伝えていた。
それは、だれにとっても衝撃的な内容である。
が、宴の間にはしらなかった。
いや、歴史的観点からいえば、おれはだけはしっていた。
さすがに、このタイミングであることまではわからない。
そんなこととはつゆしらず、宴を心ゆくまで愉しんだのである。
田中は、翌朝がはやいからともどっていった。
このときには、気をつかってかえったのかと思っていた。だが、じつはてんてこまいだったのだ。その理由が、会津候の言伝へとつながるわけである。
女性陣と子どもらが後片付けをしはじめたが、おれたちはまだちびりちびりと呑んでいる。
いや、正確には呑むのを口実に、だべっていたかったのである。
「明日、全隊士をあつめて沙汰をだすつもりだが、ここにいる者にはさきに申しておく」
じゃっかん赤い顔の局長が姿勢をただし、おれたちに告げる。
その真面目な表情に、だれもがただならぬ空気を感じたようだ。
その場で姿勢を正し、局長の言葉をまつ。
開け放たれた障子の向こうには、庭の闇がひろがっている。
相棒が縁側のそばでお座りし、こちらをみている。
「上様が大坂城にうつられる。会津候と桑名少将がともに参られる。会津候は京都守護職を、桑名少将は京都所司代を、その任を解かれた。それにともない、われわれも見廻組に組み込まれることとなった。「新遊撃隊」、それがあたらしい隊名である。明日にでも屯所をひきはらい、伏見奉行所へうつることとなった」
局長の重苦しいまでの言葉・・・。その隣で、副長の眉間の皺が濃すぎる。そして、あきらかに不機嫌で不愉快そうだ。
田中から宴のまえに伝えられ、二人ともいままで耐えていたのである。
静寂が支配したのは、いまの言葉をウエルニッケ領域に伝達するまでの間である。
「ありえんっ!近藤さん、あんた、そんな馬鹿げた命を受けたのか?」
「ああ、なんでおれたちが見廻組の下につかなきゃならんのだ?」
永倉と原田だ。
当然の反応である。
「かような命に従われると、副長?」
そして、斎藤もまた斎藤らしい反応である。
「反対です。わたしたちは、新撰組であるからこそ、いままでやってこれているのです。新撰組でなくなれば、わたしたちはわたしたちでなくなってしまいます」
山崎まで・・・。
「それは、どこからでたものなのです?近藤さん、山崎先生のおっしゃるとおり、わたしたちの新撰組です。それがなくなることは、わたしたちもなくなってしまうことです」
「総司・・・」
沖田も憤っている。
局長は、助けをもとめるように副長をみる。
「総司のいうとおりだ。新撰組は、新撰組だ。それ以外はありえねぇ。だれになんといわれようと、新撰組は、新撰組の道をゆく」
「そうこなくっちゃ」
「おうとも、あのくそったれの佐々木の下につくってのも、むかつくだけだ」
副長の宣言に、永倉と原田だけでなく、全員が膝をうって支持する。
「わかった。明日、さっそく二条城に参り、申し入れしよう」
局長が大きく頷く。
「承知いたしました。われらも掌をうちまする。その命の出所はわかっております。ふふっ、その方は、われらが新撰組おることをしらぬのでしょう。しれば、なにも申しませぬ」
副長とアイコンタクトをとった俊冬が、申しでる。
双子が大藩を動かしたり潰したりすることができるときいた、と斎藤がいっていたのを思いだす。
諸藩だけではない。幕閣をも動かすことができるのであろう。
そのタイミングで、あと片付けの手伝いがおわったのか、子どもらが戻ってきた。