『実録っ!!新選組局長はマイホームパパ』
局長宅よりも、はるかにひろいからである。
必要なところだけ、みなでてわけして掃除する。
俊冬が一人でしたときよりかは、いくぶんましになったであろうか。
屯所から、林、吉村、野村もやってきた。
留守居を、ほかの組の伍長や監察方におしつけて。
黒谷からもやってきてくれる。
名代として、家老の田中とゲロ佐川ら五剣士たちである。
これだけの人数である。さしもの柳生の女性だけで、賄えるわけがない。
お孝さん、おまささんが駆けつけてくれた。そこに、双子がくわわる。
小常さんは、これなかったらしい。
永倉いわく、磯ちゃんが熱っぽいということだが、どうも違うような気がする。
だが、この場で永倉を問い詰めるわけにもいかない。
永倉は、小常さんを落籍した。
そのあとに愛が覚めたとか、冷たいとか、ではない。
仕事優先、仕事関係の場にはプライベートをいっさいもちこまぬタイプの会社人間でも。
ちかいうちに、永倉宅をこっそり訪れるのもありかもしれない。
あるいは、先日の女子会で小常さんに会った女性陣に、そのときの様子を聴取するのも・・・。
「わが主と少将も参加なさりたい、と駄々をこねておられた」
田中が、喧騒に負けじと大声を張り上げる。
子どもらが駆けまわり、それを叱りながら大人が駆けまわっている。
いや、いっしょになって遊んでいる。
「この時期、さすがにまずいからの。全力でおとめせねばならなんだ。せめてもというわけで、われらが参加させていただく。おお、ちゃんとわれらが呑み喰いするだけのものは持参しておる」
田中は、門の向こうに控えている小者たちを手招きする。
荷車がひかれてきた。そこには、五つの樽酒が。
「ちゃんと駕籠の手配もしておるゆえ、案じるな。いいや、わたし自身の為ではないぞ。酒癖の悪い、だれかさんの為じゃ」
田中がにやにや笑いながらいうと、その酒癖の悪いだれかさんが舌打ちする。
出迎えた局長も、苦笑している。
わずかだが、とご祝儀もいただいた。
赤子も含めた子どもらを連れ、「ホーンテッドハウス」を探検する者、準備を手伝う者、雑談する者、と準備が整うまで、それぞれがときをすごす。
「いいや、おれはぜったい、ぜったいにゆかぬ」
「原田先生って、怖がりなんですね」
「やかましいっ、童。怖がりなんかじゃない。くだらねぇことは、やりたくないんだよ」
「ほら、やはり怖がりじゃないですか」
屋敷の奥を探検しよう、と話がまとまった。まぁ、いわゆる肝だめし的なものか?
子どもらは、こういうことも大好きだ。
子どもらから誘われた原田は、ソッコー拒否る。
まぁお化けが苦手なのである、当然の反応か。
が、一応は「泣く子もだまる新撰組」の十番組の組長である。
断る理由が、「怖いから」だの「苦手だ」のでは、しめしがつかぬ。
「主計さんは?いくよね?」
そして、向けられた銃口・・・。
市村の誘い。そして、子どもたちのにこにこ顔・・・。
よちよちあるきの竹吉もいるし、茂は田村が背に負い、お勇ちゃんは秦がおぶっている。
ああ、わすれていた。
原田のところは、もう間もなく第二子が誕生する予定である。
臨月状態のおまささんは、この日も「ふーふー」いいながら準備してくれている。
そして、藤堂は死んだと思っているはずの島田、林、吉村、野村らは、かれをみてもとくに驚いた様子のないことに、逆に驚いてしまう。
フツーに、マジでフツーに、「久しぶり」「元気だったか?」なんて挨拶をかわしている。
斎藤のことも然り、である。
もっとも、こちらは「斎藤一あらため山口二郎、二番組組長復帰」的な業務連絡が、屯所の掲示板っぽいところに貼りだされていた。
じつに、曖昧かつミステリーチックに。
「てめぇら、兎に角、斎藤はこれまでどおりの職務をやるんだ。山口二郎って変名してな。以上」
という、「みざるいわざるきかざる」の理念に基づいた、じつに新撰組、もとい副長の恫喝に怖れをなしてか、やはり、だれもなんの詮索もなく受け入れるのであろう。
もっとも、島田だけでなく、おねぇ救済作戦に大勢の隊士が気がついていたのかもしれない。
っていうか、「だれにもいうなよ」的に、だれかが話したに違いない。
「え、おれ?」
おれもソッコー拒否りたかった。
先日、ここでポルターガイストを経験したばかりだし、斎藤もみたようなことをいっていた。
いくら人数がおおく、双子が陰陽師やら祓い屋やらの経験があろうと、怖いものは怖い。
「なにやってんだ、ええ?おめぇら、よそ様のお宅で、騒いだり壊したりいじくったりなくしたりするんじゃねぇぞ」
廊下の向こうからやってきたのは、副長、そして局長である。
「副長、双子先生に「肝だめしをしてきていい」、と許可をいただきました」
市村が、背筋をのばして告げる。
ん?なにゆえかひっかかる。
「ほう、「肝だめし」か。面白そうだ。歳、昔、林の一軒家まで肝だめしにいったであろう?」
局長は、でかい顔を副長の顔の真んまえにちかづけ、にこやかにいう。
くくくっ、とちいさい笑い声をあげつつ。
「いいや、おぼえちゃいねぇな」
ソッコー否定する副長。
「くだらねぇ・・・」
「いいではないか、歳。わたしたちもまぜてくれ。ほら、なにをやっている?左之、主計、参るぞ」
局長は、右の掌で副長の右腕を、左の掌で原田の左腕を、それぞれがっしりつかんだ。それから、ひきずるようにし、廊下をすすみはじめる。
が、はたと歩が止まる。
「よしよし、お勇。父上が抱いてやろうな」
わが娘をみるなり、でかい顔がさらに崩れる。
野郎の腕から掌をはなし、わが子へとおおきく分厚い掌をのばす。
局長、親馬鹿モード。
娘にはめっちゃ弱いの図。
わが娘をみたとたん、副長と原田の腕をぶんと放り投げ、秦からわが娘をとりあげ、そのむっちりした頬に頬ずりしはじめた。
それから、田村の背から茂をとりあげ、こちらも頬ずりする。
右腕、左腕に、赤子を抱く局長。
先日の後片付けといい、「じつは新撰組の局長は、マイホームパパだった」と、女性週刊誌のタイトルにでそうなほど、微妙にしっくりきている。
「いざっ参る」
「承知」
そして、新撰組の若すぎる隊士たちをひきつれ、廊下の奥へとすすみはじめた。