表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

321/1255

ペッパーと海人と海賊会津侯

「土方さんっ、あんた、いったいなにやった?」

 みんな、いまだにクシュンクシュンとくしゃみしたり咳きこんだりしている。


 涙をぽろぽろ流しながらクレームをつけたのは、永倉である。


「これはなに?まさか、毒じゃないですよね、土方さん?」

 藤堂は、道着の袖で鼻水やら涙やらを拭きまくっている。


 いや藤堂、これが化学兵器だったら京都守護職は全滅だ。


 副長は、日本史どころか世界史において、もっとも邪悪なテロ犯として永遠にその名を刻むことになる。


「毒性はありませんよ。胡椒という香辛料です。それにしても、よくこれだけ大量の胡椒が入手できたものですね」

 そういいながら、胡椒についてウィキを検索する。


 あるわけない・・・、か。


 だが、胡椒は唐辛子よりはやく伝来していること、唐辛子がくる以前には、うどんなどにも胡椒をかけていた、という雑学的なものは思いだした。


 胡椒は、この時代でもたしかにある。


 副長が散布したのは、黒胡椒。すでに挽いて粉にしたものだ。


 ミルで?

 まさかこのときのために、副長が夜なべして挽いたと?


「わたしにきまっている」

 その一言で道場の隅をみると、俊冬が四本しかない掌をひらひらさせている。


「厨で挽いていたのを、副長がをつけられたのだ。さすが、としか申しようがない」


 はあ?まったく意味がわからないんですけど?



 警察では、催涙ガスをもちいることがある。戦争では、化学兵器である。それらは、一度に大量の数の人間ひとに、なにかしらの影響をおよぼすことができる。


 いやいや、そもそもこれは剣術のはずだ。


 非公式とはいえ、会津藩と桑名蕃の藩主の御前である。


 それなのに・・・。


 さすがは副長である。


 こんな汚い手段を、躊躇なくつかってくる。しかも、たまたまみかけた胡椒から、こんなを考えだすとは・・・。


 ある意味策士だ。奇想天外な戦術家だ。「銀河英O伝説」のライOハルトとヤO・ウエンリーもびっくりだ。


 俊春に返り討ちにされたのが、かえすがえす残念でならない・・・。


 あれ?


 俊春をみてしまう。

 この時代の人間ひとの俊春が、なにゆえなんともなかったのか・・・?


「簡単だ」

 床の上に巻き散らかされた胡椒を、箒でせっせと掃きながら俊冬がいった。

 舞わぬよう、しずかに掃いている。


 くそっ、あいかわらずおれの考えていることがわかっている。


「弟は、副長が懐に胡椒を忍ばせていることに最初はなから気がついていた。投げつけられたとき、息をとめたわけだ。われらは、琉球や伊勢で海人うみんちゅの経験がある。かなりながく、息をとめることができる」

「はあああああ?」

 おれの顎は、昔の漫画みたいに床についているであろう。


 うみんちゅ?沖縄の言葉だ。いや、そこじゃない。


 琉球や伊勢で海に潜ってた、と?幕府か朝廷の為に、海に沈んだ金塊かなにかを探していたのか?それとも、海賊退治でもやっていたのか?いや、どちらかといえば海賊のほうか?


「主計さん、邪魔だよ、どいてよっ!クシュン」

 子どもたちも、お掃除である。


 市村が、おれをどかせながらくしゃみした。


「主計さんも手伝ってよ。全然かっこよくなかったし、せめて掃除くらいやってくれなきゃ」


 田村が、マシンガンを乱射してきた。おれは、蜂の巣にされた。


「はあああああ」

 おおきなため息が・・・。


「クシュン」「ハクション」

 そのため息で、またしても胡椒が舞う。


 子どもらがくしゃみをはじめる。


 玉置から箒を渡され、上司の尻拭いをはじめる。


 頭のなかを、「パイレーツ・オブ・Oリビアン」のテーマ曲がリフレインしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ