探し物
非番のたびに、相棒を連れて例の林を訪れている。
市村たち子どもらが、付き合ってくれる。
幕末にも寺はある。
その裏手に、林がひろがっている。
相棒のリードは、どこにもみあたらない。
それをいうなら、「之定」を包んでいたビニール袋やおれと相棒の合羽もみあたらない。
だれかが拾ったのか?あるいは、記憶違いか?
いや、もしかすると、リードなどはこっちにきていないのかもしれない。
むこうに残されたままなのかも。
向こうで大騒ぎになっているであろうか?
新聞の見出しが、瞳に浮かぶ。
「京都府警鑑識課の課員 直轄犬とともに行方不明 なんらかの事件に巻きこまれたか?」
そして、おれの経歴をはじめとして、あることないことが書き連ねられる。
それを想像すると、うんざりする。身辺がやっと静かになり、忘れ去られようとしていた矢先のことである。
またもや、元の上司である刑事長をはじめ、周囲に迷惑をかけてしまう。
そんな煩わしさを思うと、いっそここで一生をおえるのもありかな、とマジに考えてしまう。
「ねぇ、きいてくれてる、主計さん?」
はっとすると、玉置がおれをみ上げている。
相棒と子どもらは、茂みの向こうを探しているのである。
子どもらに、簡単にではあるが相棒のハンドリングを教えている。
この時代だ。いつなんどき、どうなるかわからない。そのときに、相棒が困らずにすむよう、そして、おれになにかあっても、相棒がここで生きてゆけるよう、だれかに相棒とのスキンシップやハンドリングを託しておきたい・・・。
好奇心旺盛で呑み込みがはやく、なにより、相棒と仲のよい子どもらは、託すのにはぴったりだと考えたのである。
「すまない、考え事をしていた」
玉置に謝る。
「兼定もわからないみたいだよ、主計さん。だれかが拾ったのかもしれないね」
玉置がいっていると、茂みの向こうから相棒と子どもらがあらわれた。
綱は、市村が握っている。
「そうだな。そろそろあきらめる頃合かもしれない。みんな、ありがとう。給金がでたら、飴玉でもご馳走するよ」
「えーっ!!」
おれの提案に、ブーイングが起こる。
「せめてかけ蕎麦ぐらいにしておくれよ、主計さん」
子どもらを代表し、市村が談判してくる。
苦笑してしまう。そして、子どもらをみまわす。
ここにきて、数週間が過ぎた。どの子も、すこし背が伸びたような気がする。成長期である。あっという間に、抜かれるかもしれない。
現代人としては、さほど背の高いほうではない。むしろ、小柄なほうであろう。それは、ここでもおなじである。
かろうじて小柄ではない、といった程度である。
「わかったわかった。では、大奮発して、夜鳴き蕎麦でもご馳走しよう。だが、一度に全員はつらい」
「なにゆえか?主計さんは、わが新撰組に入隊したばかりの下っ端だからだ」
田村が叫ぶ。
かれも蝦夷まで副長に従った一人だと、つい最近思いだした。
田村は、目端のきく面白い子である。
「その通りである」
わざと高飛車な態度で認める。
「ゆえに、一度の給金で二人ずつご馳走することにする。順番は、みなで決めてくれ」
子どもらは、わーっと盛り上がる。
そして、順番を決める方法について、話し合いをはじめる。
市村から相棒の綱を受け取り、相棒を連れて祠にちかづく。
相棒がそちらを気にしていたし、おれ自身もその方向に気配を感じている。
けっしていやな感じのしない、接したことのあるそれは、おれだけでなく相棒も同様に感じている。
なぜなら、さほど警戒していないから。
そして、祠のうしろの樹の傍に佇んでいる人物に声をかける。
「また、お会いしましたね?」、と。