槍術家とラスボス
一人を十一人で囲む、というのもすごいものがある。
まさしく多勢に無勢。
完璧に、卑怯者パターンである。
それは兎も角、俊春は目隠し、ただ突っ立っているだけだ。なんの気も発することなく、それどころか存在感すら危うい。
なのになんだろうか、この半端ないオーラは・・・。
いや、オーラというものでもない、か?近寄りがたいなにか、というのか・・・。
これが、おねぇに可愛がられていたのとおなじ男には思えない。
おねぇも、ここに立てば驚くに違いない。
「あぁわたしのかわいい男が、云々」と、句でもひねるだろうか・・・。
いったい、どうやって俊春を疲れさせるか・・・。
遠間の位置で木刀を正眼に構え、必死に手段を講じる。
そんななか、原田がタンポ槍で俊春を突いた。
その突きはすさまじい。これまで、槍術の試合をじっくり観戦したことはなかったが、すごいど迫力についみとれてしまう。
原田ってすごかったんだ・・・。
まるで、「キンOダム」にでてくる若き槍の名手みたいだ。
原田、マジかっこいい・・・。
いや、だめだ。つい先日の夢落ちの場面を、思いだしてしまう・・・。
だが、その槍の攻撃すら、俊春にかかればなんてことはない。
突きの連打を、紙一重でかわしている。
「おい、みろよ。脚が動いてる。よっ左之、その調子だ。突いて突いて突きまくってやれ」
永倉のいうとおりだ。
剣と違い、上半身だけではよけきれないのであろう。わずかではあるが、脚が動いているし、上半身の動きもおおきくなっている。
「原田先生っ!弟は慣れぬゆえ、そこそこにしていただかねば」
そのとき、俊冬の奇妙なまでの掛け声が・・・。
「そうか、そうだったよな、俊春?いっちょ指南してやるか」
原田のうれしそうな、うきうきしたような声。俄然はりきりだした。
「子どもたちのまえで、なにを申すのですっ!」
背後で金切り声が・・・。
おれが振り返った瞬間、双子の異母姉のパンチが、俊冬のボディーにきまったところだ。
「どういう意味だ?」
「さあ・・・」
事情をしらぬ、黒谷の剣士たち・・・。
いや、おれたちもしりたくないが・・・。
永倉と斎藤が、奇妙な動きをはじめた。
遠間から攻撃を仕掛け、すぐにまた退く。それは、二人がほぼ同時にやりはじめた。
連動している。おなじくらいのタイミングで、それを思いついたのだ。
原田の槍術をみ、それをヒントに編みだしたというわけだ。
藤堂、島田も気がついたようだ。それから黒谷の剣士たちも。
おなじように攻撃を仕掛けはじめる。
あたらなくてもいい。交代で、あるいは同時に、遠間から一打放ち、すぐにはなれる。それを全員でやれば、やられる側はたまったものではない。
近間で攻撃をするから、息遣いや動きを感じ取られる。そして、動かされる。
遠間を保ち、仕掛けてもすぐにはなれれば、感じとられにくい。なにより、鬱陶しいことこの上ない。蠅に群がられるようなものだ。やめさせるには、嫌でも追わねばならぬ。
その場より、動かざるをえない。
案の定、俊春に動きがでてきた。
もっとも、のってくれている感もあるが・・・。
「そろそろ、おれの出番か、ええっ?」
そして、ついにきた。
ラスボスのご登場!
思わず、副長のために場所をあけてしまう。
が、みんなの表情・・・。
めっちゃ胡散臭そうだ。
きっと、おれもおなじ表情になってるはずだ。
視線を、道場の隅で見物している局長、井上、沖田へと向ける。
超絶マックスに、胡散臭そうな表情だ。
山崎は、まだましだ。
そして、子どもら。みな、笑顔だ。
完璧、副長がなにをしでかすのかを愉しみにしている。
さらには、双子の義母と異母姉・・・。
まるで「松O健」か「氷川Oよし」か、あるいは韓流スターでもみるような、そんなきらきらした感がでまくっている。
「菅井Oん」似の双子の義母まで、副長のイケメンにやられたか・・・。
にやにや笑いの俊冬の足許には、松吉が床にきっちりと正座し、祖母や母とは違う意味で瞳を輝かせている。
沖田の内弟子ともいえるかれにとって、副長は兄弟子にあたるのだ。しかも、公式には一応目録である。
その活躍を、期待していてもおかしくない。
さらに、道場の上座におわす会津候と桑名少将、それから重臣たちをそっとうかがう。
うわーっ、めちゃめちゃにやにやしてる。
いや、お上品な笑みを浮かべていらっしゃる。
ぶっちゃけ、会津候と桑名少将も、副長に期待してるわけだ。
もちろん、剣の技じゃない。
どんな汚い策でくるか、を。