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たまにはマジに歴史的背景語ります

「油小路事件」・・・。

 新撰組と御陵衛士との血みどろの抗争・・・。


 おねぇは新撰組に加入し、尊皇攘夷思想に染めるつもりであった。

 まずはそこ、である。

 最初はなから新撰組が佐幕派だとわかっていて、加入したのである。いくら同門の藤堂の誘いとはいえ、無茶ぶりもいいところだろう。


 それをわざわざ道場をたたみ、妻子を置いて江戸から京へと上洛・・・。


 自営業者がそれをやめ、妻子を故郷に置いて上京する。

 独自のノウハウとスキルをひっさげて。

 それで一華咲かせようというのである。


 おねぇは、あらゆる意味で力不足であった。

 局長の関心を惹くことはことはできても、傾倒させるまでにはいたらぬ。一部の隊士たちをとりこんだだけである。


 その一部も、思想に傾倒というよりかは、「鬼の掟」に反発や不信感を抱いてであろう。あるいは、あっち・・・のことで・・・。


 もしも新撰組が、というよりかは副長が、もっとゆるくて寛容な上司であったら、はたしてどれだけの隊士がおねぇに靡いたであろう。


 ウイキペディアによると、長州藩にたいして寛大な処分を主張する建白書を、おねぇが提出したことが事件の発端である。

 その反対を主張している新撰組、ぶっちゃけ副長の癇にさわった、のである。


 さらには、おねぇが局長と副長の暗殺を画策していた為、とも。


 それらは、新撰組側のきっかけや捏造だったのかもしれない。


 おねぇは、局長の思想をかえようとする旨を記した文を残している。

 つまり、穏便に併合しようとしたのか、それが無理なら共存しようとしたのかもしれない。


 だが、新撰組がだまっているわけはない。いや、副長が、である。


 それこそ中途採用した幹部が、内部事情やノウハウを競合他社に売りつけたようなものであろう。

 現代なら民事訴訟ものである。もちろん、懲戒解雇の憂き目にあうのはいうまでもない。

 雇用主は、そいつが二度とおなじ業界で仕事ができぬよう、手をまわすにちがいない。


 もちろん、それはもっと後の平和な時代の話。

 幕末ここでは、そんな生ぬるい対処になるはずもない。


 新撰組側のことを一方的に並べたが、おねぇはおねぇで自分の思想を貫く為に、八方手を尽くす努力はした。

 一滴の血を流さず、平和的解決を目指したのかもしれない。


 だが、その手段も突っ込みどころ満載だ。


 なぜなら、新撰組に取り残された茨木ら四名の若者たちが、黒谷あいづで直訴の上切腹してしまったのである。


 おねぇのあずかりしらぬこととはいえ、結果的には犠牲になった。

 おねぇの思想、目的の為に・・・。

 四名の命の重みは、けっしてちいさくはない。


 それも要因の一つであったのか・・・。


 後世に残っている資料などから、どちらかといえば新撰組が悪者になっているのがこの事件である。


 あらましは兎も角、思想を貫く、やり遂げるという点において、おねぇは坂本とは違う。

 人となり、運気・・・。

 そこが、かれらの運命の分かれ道であったのか。


 暗殺されたのも、やり遂げた後とそうでないのとではあらゆる点において違ってくる。

 この時代の評価、後世の評価も。


 土方歳三との出会いもまた、おおきく作用したであろう。


 かたや惚れさせた。が、かたや惚れこんでしまった。ここが違う。


 でっ結局、事の真相は思想でもBL的なものでもなく、互いの趣味の延長線上のことであった、と?


 もうどうにでもしてくれと思ったとしても、わかってもらえるはずだろう。おそらく、だが・・・。


土方殿・・・は、すでにご理解いただいているようですよ。先生、みなまで申し上げねばなりませぬか?われらは、ひとときとはいえあなたに可愛がっていただいた。そのあなたをどうにかするよう、わたしは弟に命じたくないのです。あぁ先生、われらが何者か、それはこの際考えぬほうがよろしいかと。問題はわれらではなく、あなたご自身の生命いのち将来さきなのですから」


 これまでとはがらっと違い、低く凄味のある声音。


 おねぇの肩が震えているのがわかる。

 ぶらぶら・・・・させながら、俊冬の恫喝めいた忠告をどのような思いできいているのだろう。


 一応はシリアスなシーンのはずだ。すくなくとも、おねぇの背をみているおれたちは、十二分にそんな雰囲気にひたっている。

 


「茨木らのことは悪かった。局長が説得を試みたが、あいつらのことを止めることができなかった」

 おねぇとまともに対峙している副長は、視線のやり場に困っているようである。


 室内に一つだけある燭台を無駄にガン見しつつ、ぶっきらぼうに切りだした。


「散々なじったが、そうだな、本懐を遂げられなかったということに関しては無念だろう。だが、この兄さん・・・のいう通り、あんたはこのまま消えたほうがいい。生きてりゃまた、違う形でなにかを成せるだろうから。句も、素っ裸で創作しまくってくれ。山南さんのときのあんたの句、おれは感心した。心から悼んでくれてる、とな」

 副長は、いっきにまくしたててからおおきくため息をついた。


「鬼の副長」は、そういう男なのだ。そうあらためて思う。


「土方君」

 いまのおねぇの叫びは、最後にハートマークをつけたくなった。

 胸元で掌を重ね合わせたのが、うしろからでもわかる。


「きみは、やはりわたしのことを・・・」


 あぁきっと、はきらきら輝いているに違いない。


 よくある勘違い系だ。


 これだけ自分にいいように、前向きに考えられるって、ある意味すごい才能だと思う。


 だからこそ、ここへくれば自分の思想を貫くなり夢をかなえられると信じていたのであろう。


「ばっ、馬鹿野郎っ!下手にでりゃ、調子にのりやがって」

 副長は、おねぇに視線を戻しながら叫んだ。


「素敵・・・。やはり、怒っているあなたのほうが素晴らしいわ」

 おねぇは、しみじみといった感じで呟いた。

 もちろん、その熱い視線は、副長をとらえたままであろう。


 副長のドSっぷりと、おねぇのドMっぷり・・・。


 なるほど・・・。


「俊春、なにをしているのです。はやく帯をわたしなさい」

 おねぇが右の腕を伸ばす。


 羽織った夜着からあらわれたその腕は、細く白い。とても剣術をやっているような腕にはみえない。ましてや、皆伝といえるような。


 そして、畳に片膝ついて控える俊春の顎を愛おしそうに撫でる指先・・・。


 それもまたすらりと伸び、きれいである。掌タレもびっくりだであろう。

 副長以上に、ネイルが似合いそうだ。


 この掌が木刀、あるいは日本刀を握るところなど想像もできない。


 そういえば、web上のなにかの資料で、おねぇもまた坂本とおなじく、生涯他人ひとを斬ったことがない、とみた気がする。


 剣をふるったのは、油小路で刺客に襲われときだけ、と。

 それが誠なら、皮肉以外のなにものでもない。


 おそらく、剣をふるうような機会チャンスがなかったのであろう。


 くどいようだが、坂本とは違う。

 おねぇの場合、弁舌をふるうべき内容、質、タイミング、こういったものがあらゆる意味で残念であった。


 そう、じつに残念であったのだ。

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