句作 句作 句作 嗚呼句作!!
「歳、相変わらずだな・・・」
局長は、気の毒そうな、それでいて笑いだしそうな、そんな微妙な表情で副長をみる。
「先生はさすがだよね。おなじ夜空を詠んでも、こんなにちがうなんて」
とは、藤堂である。
「平助っ、てめぇ」
副長が切れた。
腰を浮かしかける。
だが、それを俊冬が四本しかない掌をあげ、制する。
「まだ頭がぼーっとしてやがる。おれが詠んだ句だって、なにゆえいえる?おれが詠んだってな?くそっ、覚えてねぇ・・・。はっきりと・・・」
頭を抱えつつも、おぼろげにその記憶はあったのであろう。
じょじょに、声のトーン、勢いがなくなってゆく。
「ああ、おれのはどうせまずいよ。すぐにおれのだってわかるくらいな。だが、こいつのは?結果でなく過程が問題であろうが、ええっ?」
おつぎは逆切れだ。
しかも、いつも結果がすべてだといっている副長が、いまは過程がすべてだ、といっている。
「だいたい、なんで素っ裸で句作しやがるんだ、ええっ?」
副長のその一言に、ちからいっぱいひく。
感覚的には、「イスカOダル」や「遠い昔、遥か彼方の銀河系」くらいまで。
「素っ裸で句作」・・・、「素っ裸で句作」・・・。
このフレーズが、耳のなかをリフレインしている。
じゃあ、入ってきたときに真っ裸だったおねぇは?
新撰組から離党するまえ、夜な夜な副長の部屋のまえですっ裸でやってたこととは・・・。
「いまだ素っ裸でないとイマジネーションとやらがわかぬとは・・・。覚えてらっしゃいますか、先生?わたしのモノに彫りこもうとされましたよね?」
俊冬である。屯所で打ち合わせのときに、斬られそうになったといっていた。
げえええ・・・。
これはこれでひいてしまう・・・。
「俊冬、いらぬお世話です。生まれたままの姿、これこそが人間がもっとも活性化するのです」
おねぇがすっくと立ち上がる。
肩に夜着をひっかけただけの、あられもない姿で。
瞳のやり場に困るのは、おれだけではないはずだ。
「源さん、源さん、しっかりしろ」
呆然自失のていにある井上の両肩を、掴んで揺さぶる原田。
おねぇの股間でぶらぶらしているものをみつめる、斎藤の爽やかな笑みも凍りついている。
間者としてとはいえ、ついていったことを後悔しているだろう、きっと。
「さて先生、いかがなされますか?伊東甲子太郎は暗殺され、あらたな人生を思いのままに生きられますか?イマジネーションとやらを総動員し俳人にでもなられるか、あるいは明朝にでも薩摩藩邸へと脚を運び、「わたしはまだ生きている」と見栄でもきられますかな?」
俊冬は、そういうとみじかく笑う。
俊春は、おねぇの熱を覚まそうとでもいうのか、より添って肩や腕をさすりつづけている。
「後者なら、それはそれで困ったことになりますので。ああ、いえ、先生ご自身は無論のこと、われらにとっても・・・。薩摩は、あたらしき策を放たねばなりませぬ。先生、あなたを始末するために。否、じつは次善の策はあり、すでに放たれておりますが・・・」
俊冬の話術・・・。
内容はもちろんのこと、タイミング、抑揚、そして、瞳と顔の表情・・・。どれをとっても抜群にうまい。
おねぇだけでなく、おれたちもついつい惹きこまれてしまう。
副長をそっとうかがう。
それがうまいはずの副長ですら、俊冬の話術に魅入られている。
俊冬の男前の横顔を、じっとみつめている。
「あらかた、薩摩の次善の策ってのが、おめぇらのことなんだろうよ、お兄さん方?」
副長である。
形のいい唇をひらくと、さらりとおっ立ててくる。
あ、いや、失礼。推測をおっ立てる。
媚薬の影響でぼーっとした頭をフル回転させ、瞬時に状況を判断した上で・・・。
さすがは副長。
誠に、句作のことが残念でならない・・・。
男前の顔に、不敵ともいえる笑みを閃かせる双子。
こちらもさすがであろう。
「土方殿、めったなことは申されぬ方が身のためでござる」
「どういうことなの、俊冬?あなたがわたしを?あなたがわたしをどうこうしようなどと、どうしてそう思えるのかしら?」
おねぇは、甲高い声で叫びながら体ごと俊冬の方へと向く。
あぁアレがみえなくなった。とりあえずはホッとする。
「先生、われらがあなたをどうこうせぬと、なにゆえそう思われるのです?たいしたご自信だ。おおきさにそこまで自信をもてるとは、男子としての誉れですな」
俊冬、それ、なのか?
なんでそれのおおきさなんだ?
それをいうなら、度量や懐のことじゃないのか?思想や見識の素晴らしさ、では?
まぁたしかに、おおきくはある。
正直、あんなものでBLチックなことをされれば、と想像すると・・・。
いや、またしてもなにを考えてる?
それに、なにをみてたんだ、おれ?
だれかさんをのぞき、おれたちはもうどうでもよくなっている。
もうこの四人で、いや、だれかさんも含め五人でテキトーにやってくれといいたい。
「おほっ!おおきさか?負けちゃいないぞ」
そのだれかさんの興奮気味のつぶやきが、室内にポンとはじけ飛んだ。