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「ちょっとまちやがれ、いったいどうなってるんだ、ええ?くそっ、ぼーっとしちまって・・・」
「土方殿、どうかお座りください。お案じめさるな。双方、ただの誤解でございます」
俊冬が身振りで示すまま、副長はその場にどさりと胡坐をかく。
はだけた胸元、きれいな胸がみえている。
「こいつを野放しにするってか?くそっ、こいつはな、夜な夜なおれの部屋のまえにきては、おれを悩ませつづけやがったんだぞ」
副長は、またしてもきれいな指先でおねぇを指し示す。
「なんですって」
おねぇが金切り声をあげる。
二人とも、ますます覚醒しつつあるようだ。
「まぁまぁ・・・。歳、いったいどういうことなんだ?」
当惑しているのは局長だけではない。
ついに、副長のおねぇ暗殺の動機が明かされようとしている。
「この変態野郎は・・・」
「きき捨てなりません、土方君っ」
「おれの部屋のまえで、あられもない格好でとんでもないことしやがるんだ。それも毎夜だぞ」
唾を飛ばしながら糾弾する副長。
全員が、その光景を想像する。
毎夜、健康な男性が、障子越しに好いた男の影をみながらすることといえば・・・。
健康な男の想像することといえば、おなじもののはずである。
「なんてこった・・・」
「歳さん・・・。なんて申してよいか・・・」
永倉につづき、井上が呟いた。
井上ではないが、たしかになんていっていいのかわからない。
「すっ裸で・・・。よくだれも通りかからなかったもんだ。いや、いっそあの姿を幹部か隊士か、いやいや、こいつの取り巻きにでもみられりゃよかったんだ。伊東大先生の名声も地に落ちるってもんだ」
おっしゃるとおり。そんな姿、だれがみても炎上ものだ。
「なにを申すのです。わたしがいかなる格好であろうと、だれにもなにも迷惑はかけませぬ。わたしのイマジネーション方法の一つです」
おねぇが開き直った。
「イマ?イマジ?なんだって?」
局長である。
「想像のことです、局長」
思わず、冷静に告げてしまう。
「ああ?馬鹿いってんじゃねぇよ。あれが想像だ?ああ、いっそそっちのことで想像するってほうがまともだぜ」
副長は、自分自身を両腕で抱く。
「思いだしただけでもおぞましい。刀振りかざして襲ってくるほうが、どんだけすっきりするか・・・。兎に角、てめぇのような変態野郎は、おれのまえから消えてなくなりやがれ」
口角泡を飛ばす、とはこのことであろう。
「てめぇの句がいいっ、てのが気にくわねぇっ」
つづけられた副長の言。
きき間違えたのであろうか。それとも、激怒しすぎていい間違えたのであろうか・・・。
そのとき、俊冬が掌をさっと翻した。すると、そのなかにあるものがおれたちの足許へさっとひろがる。
あの絡み合っていたもの。
おれたちの足許に、その二つが並び、モノもいわずおれたちをみ上げている。
「ふむ・・・。「寒空に 浮かぶは黒い 雨雲なり」」
局長が、すぐ足許にあるそれをよみ上げる。
「こっちは?えーっと、「天高く 夢やうつろに 寒月夜」・・・。なんだこりゃ?」
永倉だ。
局長のほうにはまばらに、永倉のほうにはぎっしりと文字が記されている。
二つの巻物・・・。おれたちが入ってきたとき、その巻物が絡み合っていたのである。