表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

306/1255

What are you doing here?

「ちょっとまちやがれ、いったいどうなってるんだ、ええ?くそっ、ぼーっとしちまって・・・」

土方殿・・・、どうかお座りください。お案じめさるな。双方、ただの誤解でございます」

 俊冬が身振りで示すまま、副長はその場にどさりと胡坐をかく。


 はだけた胸元、きれいな胸がみえている。


「こいつを野放しにするってか?くそっ、こいつはな、夜な夜なおれの部屋のまえにきては、おれを悩ませつづけやがったんだぞ」

 副長は、またしてもきれいな指先でおねぇを指し示す。


「なんですって」

 おねぇが金切り声をあげる。


 二人とも、ますます覚醒しつつあるようだ。


「まぁまぁ・・・。歳、いったいどういうことなんだ?」

 当惑しているのは局長だけではない。


 ついに、副長のおねぇ暗殺の動機が明かされようとしている。


「この変態野郎は・・・」

「きき捨てなりません、土方君っ」

「おれの部屋のまえで、あられもない格好でとんでもないことしやがるんだ。それも毎夜だぞ」

 唾を飛ばしながら糾弾する副長。


 全員が、その光景を想像する。


 毎夜、健康な男性が、障子越しに好いた男の影をみながらすることといえば・・・。


 健康な男の想像することといえば、おなじもののはずである。


「なんてこった・・・」

「歳さん・・・。なんて申してよいか・・・」

 永倉につづき、井上が呟いた。


 井上ではないが、たしかになんていっていいのかわからない。


「すっ裸で・・・。よくだれも通りかからなかったもんだ。いや、いっそあの姿を幹部か隊士か、いやいや、こいつの取り巻きにでもみられりゃよかったんだ。伊東大先生の名声も地に落ちるってもんだ」


 おっしゃるとおり。そんな姿、だれがみても炎上ものだ。


「なにを申すのです。わたしがいかなる格好であろうと、だれにもなにも迷惑はかけませぬ。わたしのイマジネーション方法の一つです」

 おねぇが開き直った。


「イマ?イマジ?なんだって?」

 局長である。

「想像のことです、局長」

 思わず、冷静に告げてしまう。


「ああ?馬鹿いってんじゃねぇよ。あれが想像だ?ああ、いっそそっちのことで想像するってほうがまともだぜ」

 副長は、自分自身を両腕で抱く。


「思いだしただけでもおぞましい。刀振りかざして襲ってくるほうが、どんだけすっきりするか・・・。兎に角、てめぇのような変態野郎は、おれのまえから消えてなくなりやがれ」


 口角泡を飛ばす、とはこのことであろう。


「てめぇの句がいいっ、てのが気にくわねぇっ」

 つづけられた副長の言。


 きき間違えたのであろうか。それとも、激怒しすぎていい間違えたのであろうか・・・。


 そのとき、俊冬が掌をさっと翻した。すると、そのなかにあるものがおれたちの足許へさっとひろがる。


 あの絡み合っていたもの。


 おれたちの足許に、その二つが並び、モノもいわずおれたちをみ上げている。


「ふむ・・・。「寒空に 浮かぶは黒い 雨雲なり」」

 局長が、すぐ足許にあるそれをよみ上げる。


「こっちは?えーっと、「天高く 夢やうつろに 寒月夜」・・・。なんだこりゃ?」

 永倉だ。


 局長のほうにはまばらに、永倉のほうにはぎっしりと文字が記されている。

 

 二つの巻物・・・。おれたちが入ってきたとき、その巻物が絡み合っていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ