藤堂 服部 毛内 壮絶死!
藤堂役の俊春が仕掛けた。
あまりときはかけられぬ。大石らに乱入されてはまずいからだ。
斎藤、それからおれも気合とともに打ちかかった。
リアルさを追求するには、おれでは役不足のようだ。
それでも、互いに息を合わせ、うまく斬られたと思う。
一応、「ギャー、無念。先生っ、先生の仇を討てず・・・」、と叫んで倒れてみた。
うわー、どんだけ大根役者なんだ、おれ?、と突っ込みを入れながら・・・。
斎藤は、落ちていたおねぇの刀を拾い上げ、二刀流の服部を演じきった。
おれの話を考慮してくれたに違いない。
原田と対峙し、その愛槍の餌食となった。
そして、「無念っ!!」と残し、地に沈む。
俊春は、時代劇スターも顔負けなほどの演技力を発揮した。
つまり、じんとくるほど感動的な斬られかただ。
永倉の斬撃を、じつにドラマチックにうけた。そのどれもが、スローモーションのようにながれてゆく。
血煙とともに、くるくるとまわっている。無念と呪詛をふりまきつつ・・・。
もはや、時代劇というよりかはオペラだ。
「ああっ、わが刀が、わが体が・・・」なんて、大仰な身振りと歌とでわかしてくれそうだ。
そして、敬愛しているおねぇのすぐ横にたおれた。
ヒロインのように、愛する男の死体に這いより、その冷たくなった掌を握りしめる・・・。
そこまでやってのけるのか、とおれは地面とキスしながら勘ぐってしまった。
薄目をあけ、周囲をうかがう。
大石たちの姿も気配もない。
決着がついた以上、長居は無用というわけだ。
静寂が戻っていた。
おれたちの殺陣のシーンに、拍手を送ってくれる者はいない。もちろん、スタンディングオベーションもない。
さらには、辛らつな評価をつける評論家もいるわけがない。
永倉と原田が、周囲にだれもいないか気配を探っているのが感じられる。
「みなみな、なかなかの役者でありました」
「ぎゃーっ!」
「うおおおっ!」
永倉と原田の悲鳴が、耳に痛いほど響く。
転がっていた血みどろのおねぇ、もとい俊冬のせいだ。
朝、爽やかに瞳が覚めたかのように、突然むっくり起き上がったのである。
その横で、俊春も脚のばねだけで飛び起きる。
斎藤とおれも、むくりと起き上がった。それから頭巾を脱いだ。
「相棒っ!」
呼ぶと、相棒がたたたっと路地から駆けてきた。そして、おれたちのまえで四肢の動きをとめた。
天然のあかりの下、相棒のつぶらな瞳がおれたちをじっとみている。
めちゃめちゃ胡散臭そうに・・・。