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大石 炎上す!!

「なんだぁ貴様は?」

 まるで雑魚キャラの親玉のように、大石は仲間を背後にしたがえ、藤堂演じる俊春と対峙している。


 余裕をぶっかまし、愛刀「大和守安定やまとのかみやすさだ」の峰で自分の右肩を軽く叩いている。


「御陵衛士藤堂平助っ」

 堂々した名のりに、大石をはじめ幾人かがはっとしたようだ。


 そのタイミングで、通りの向こうから駆けてきた集団が到着した。

 別働隊だ。その先頭には、しれっと永倉、原田がいる。


 そして、おれたちの背後でも新たな集団の気配が。


 御陵衛士たちだ。距離がある。よくわからないが、こちらを認識した瞬間、まわれ右して駆け去っていった。


 本物の服部と毛内が、うまく薩摩藩邸へと誘導するだろう。そして、現場に戻るふりをし、それぞれの故郷へと旅立つはずだ。


 ただ、やはり新撰組おれたちが悪者になる。歴史は狂わない。本来なら、新撰組おれたちが殺るはずだったのだ。


 いくら「チョイ悪親父」こと阿部と存在感薄薄の内海が抗弁してくれようと。


 そういえば、おねぇがよからぬことをたくらんでいる、と実弟の鈴木がいっていた。おねぇ自身、おれにそれをにおわせていた。


 よからぬことといえば、フツーは暗殺だ。フツーは。

 すくなくとも、鈴木や阿部、服部たちはそれをしらされていない。


 ならば、篠原や加納あたりがそれについてしっていたのだろうか。あるいは、たくらみとやらをすすめていたのだろうか。


「おいおい大石先生よ、あんたらの出番は終了だ。こっからはおれらのつとめ。あんたらは戻って一杯ひっかけな」

「なんてこった。これじゃあ、だれだかわからん」

 永倉と原田は、それぞれの得物をひらひらさせながら、対峙するおれたちにちかづいてきた。


 その二人の表情かおには、冷たい地面に横たわる血まみれの肉塊を案じるものがありありと浮かんでいる。


「ついでです、両先生。こいつらも・・・」

 大石は、「安定」の切っ先でおれたちを指した。

「わたしらが片付けますよ。先生らこそ、屯所に戻るか、あぁそうそう、さっき逃げてった連中を追っかけたらどうです?」


「大石、だまれっ!」

「この野郎っ、調子にのんなよ」

「両先生、追っかけたらどうでっかー」


 大石、炎上す。


 途端に、二番組と十番組をはじめとした隊士たちが槍玉にあげた。最後の大坂弁による物真似は、二番組のお笑い芸人青木であることはいうまでもない。


 集団のなかで協調性、人となりというのは重要なのだと、あらためて思った瞬間だ。


 永倉は、すでに鞘から解放している「手柄山」をひらひらさせ、手下てかたちを鎮めた。

 そこはさすがの組長。手下てかたちはぴたりとおし黙る。


「大石先生よ。うちも原田先生のとこも、酔い潰れた相手を背後から斬り刻むような卑怯な真似をする野郎は一人もいねぇ」

 永倉は、そういいながら血にまみれた肉塊を草履の先で蹴ろうとした。


 ゼロコンマ以下の間、その脚の動きが止まったのを見逃さない。


 ちゃんと生きているのか確認したいのだが、あまりの凄惨さに躊躇したに違いない。それでも意を決したのか、草履が肩のあたりにあたった。まるで丸太棒のごとく、肉塊はごろんと転がった。仰向けだった状態がうつ伏せにかわった。


 わお・・・。


 永倉がいった通り、表、つまり正面より背中のほうが裂傷がおおい。というか、あの奇抜な色合いの羽織は、切り刻まれて紙縒りみたいになっている。


「ふんっ、任務に失敗は許されぬ。これは果し合いではない。暗殺だ。それにきれいも汚いもあるものか」 

 大石は開き直った。そして、鼻で笑った。

「安定」の峰は、肩を叩きをつづけている。


 永倉の遠まわしの表現は、かれに伝わってはいないようだ。

 すなわち、「大石、てめぇは弱っちいんだよ」ということを。 


 原田は、先ほど御陵衛士がやってきてすぐに消え去った方角に視線をはしらせた。


 ときは充分稼いだ。かれらが薩摩藩邸に逃げ込むとき、をだ。


「島田、林両伍長、さっきの御陵衛士たちを追っかけろ。たぶん、もう無理だろうがな。いいか、無茶はするんじゃない。連中のこった、薩摩にでも逃げ込みかねん。そうなったら、新撰組こっちは掌をだせんからな」

 そして、伍長二人に命じた。

「承知。いかほど連れてゆきます?」

 林がきいた。

「全員だ。おいおい、みろよ。頭首かしらを闇討ちされ、その仇を討とうってのがたったの三人。おれと新八だけで充分だと思わんか?」

 原田の凄味だ。そこはやはり、さすがだといわざるえない。

「失礼いたしました、組長。島田先生」

 林は、ずっと押し黙ったままの島田をうながした。


 島田は、おれたちをさっとみまわした。それから、地に転がる肉塊に視線をとめた。


 なにかを感じたのだ。たとえば、この肉塊がなんなのか・・・・・、ということを。


「承知。組長、ご武運を・・・・

 やはり、島田は感づいたようだ。目礼すると、手下てかを率いて去っていった。


「大石、てめぇらのでる幕じゃねぇ。ひっこんでろ」

 永倉は、得物を軽く打ち振りながら恫喝した。その迫力に、さしもの大石もびびったようだ。納刀するまでではなかったが、一歩退いた。


「平助、裏切り者が・・・。おめぇの信じたもんがこの様だ。死んでおとしまえをつけやがれ」

 永倉は、あらためて藤堂役の俊春と対峙した。


「しんぱっつあん、仕方ないよね」

 俊春もまた演技力は兄譲り。まるで藤堂、というよりかは藤堂のまんまだ。頭巾を脱げば藤堂本人だった、というオチもありそうなくらいだ。


「ああ?そっちは?あー・・・」

「服部に毛内だ、原田先生よ」

 原田のボケに、斎藤が応じた。


 おれもあらためて正眼に構えなおす。


 さあ、いよいよおれも役者デビューだ。


 ううっ、うまくできるのか、おれ?

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