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Who will pass away?

「局長、頃合です。なかでお二方とおまちください。原田先生、斎藤先生」

「おうっ!」

 俊冬の掛け声とともに、裏口からのっそり原田があらわれた。そして、斎藤も。


 原田は、槍を携えている。


 月明りと裏口からもれる淡い灯火のなかであっても、原田が憔悴しきっているのがはっきりとわかる。


「左之っ、おまえいったい・・・」

「原田先生、いったい・・・」

 永倉とおれがいいかけたところに、斎藤がなにかをさしだしてきた。


「なんだこりゃ?」

 永倉の疑問は、おれのそれでもある。


 斎藤のそれぞれの掌に得物が握られており、それをさしだしてきたのである。


「差し料をそれにかえてください。なあに、ただのなまくら。仔細は、あゆみながら説明いたします。井上先生、お三方のことを頼めますな?」

「あぁ任せておけ。気をつけ・・・」

「みな、みな、くれぐれも気をつけよ」

 俊冬の依頼に応じかけた井上を、突き飛ばす勢いで激励してくる局長。


 なににたいして激励されているのかもわからず、おれたちは心太のごとく裏木戸からおしだされた。


 夜のしずかな町へと戻ることとなってしまう。


「俊冬殿、なにゆえ服部さんと毛内さんが死ぬはずだったことをしっているのです?」

 ひたひたとあるきながら、おれはすぐまえにいる俊冬の背に呼びかけた。


 おねぇの奇抜な羽織は、夜の暗闇でもくっきりはっきり自己主張している。


 これでおれたちも例のだんだら模様の羽織をまとっていたら、昭和時代の暴走族ぞくのようにみえるにちがいない。


死无攻无倶御(しんせんぐみ)』・・・。騎乗し、島田あたりが髑髏のマークの旗でも打ち振れば、まさしくそれっぽいだろう。


 鉄パイプとかチェーンとかふりまわし、京の町を駆け抜ける。

 

 現代なら、SNS上であっという間に拡散され、炎上間違いなし。



「えっ?なに?服部さんと毛内さんが死ぬ?はずだった?」

 後ろにいる藤堂の驚きの声が背にぶつかり、お馬鹿な妄想に終止符がうたれた。


「誠か?」

「あの二人も?」

「なんてこった」

 つづいて斎藤、原田、永倉の声も。


 おれは後ろを振り返り、後ろあるきしながら答えた。


「そうですよ。別働隊に斬り刻まれるのです。もしかすると、後世のつくり話かもしれませんが、二刀流の服部さんは、原田先生、あなたが槍でとどめをさすことになっています」

「なんだって?これでか?」

 原田は、槍を揺らした。


 そういえば、いつも槍の穂にカバーをしているのに、いまはしていない。原田は、刀の鞘には頓着しないが、槍の穂先の管理にはこだわりがあるのだ。


 原田は、いきなり穂先で自分の左の掌をおもいっきり突き刺した。


 仰天したのはいうまでもない。原田の隣にいる永倉もをみはっている。


「ジャスト・ジョーキング、と申しておる」

「ひょえええええっ・・・」

 背後から囁かれ、悲鳴をあげたところを斎藤の掌がおれの口を覆った。


「馬鹿だな、これもなまくらだ。こんなもんで服部のあのごつい体躯を貫けるものか」

 原田がせせら笑った。


「兄上、ジャスト・ジョーキングとはなんでしょうな?おぉそうだ、たしか冗談という意味でしたな。おねぇから寝物語にきいたような気がいたします」

 後ろあるきしながら、相棒の代弁者たる俊春のその言葉をきいた。


 相棒の英語は兎も角、俊春自身はおねぇから床で学んだ、と?


「そういえば、山崎先生は四つの死体の準備をすると。いま一つはいったい・・・」

 藤堂だ。


 思わず立ち止まってしまった。相棒もとまり、左脚のすぐ後ろでおれをみ上げている。


 双子だけはあるきつづけている。


 かれらには、四つ目の死体がだれのかが、わかっているのだ。

 なにゆえかはわからないが・・・。

 

 そういえば、さきほどのおれの問いもスルーされた。


 双子をのぞき、全員がおれをみていた。ここにいるのは、局長と副長ともっとも付き合いがながく、かれらが信頼しているメンバーだ。


 もちろん、おれをのぞいて、だが。


 おれは藤堂をみた。


 そのおれのに、死神でもみたのだろう。藤堂は、一歩後ろに退いた。よろめいた、というべきか・・・。


「わ、わたしか?」

「ええ、そうです。局長と副長は、あなただけは逃すよう、永倉先生と原田先生に命じました。お二方は、命じられるまでもなく、そのようにするはずだった。密命を受け、お二方は実際、実行に移しました。が、平隊士たちはなにもしりません。隊士の一人が、闘争の場から逃れるあなたを追いかけ、その背を斬りつけます。あなたは、それが致命傷と悟ったのでしょう。ふたたび戦い、そして・・・」


「なんてこった・・・」

 だれかがうめいた。


 それは、だれにとっても衝撃的な事実・・に違いない。


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