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セカンドハウスにて

 新撰組は、どちらかといえば不逞浪士などを斬って斬って斬りまくるというような、どこか殺伐とした人斬り集団といったイメージ強い。


 が、実際のところは、京都守護職の一部。立派な警察組織の一つである。


 対テロ特殊部隊、といったところであろうか。


 一般市民をテロから護るための情報をキャッチすれば、それを調査し裏づけを取り、それに対しての行動を起こす。


 新撰組において有名な立ちまわりの一つである「池田屋」などが、そのいい例であろう。

 

 二十名以上の尊皇攘夷派の志士たちの会合を察知した新撰組は、山崎、島田ら監察方の裏づけ調査の元に、「池田屋」か「四国屋」のどちらかでそれがおこなわれるであろうと絞り込んだ。そして、直接御用改めをすることで、ついに「池田屋」に集っているのを発見、大激戦にいたった。


 志士たちは、京の町に火を放ち、その上で帝を攫うことを画策していた。


 それは、現代においては東京の街に火を放って天皇陛下を拉致するのとおなじ意味をもつ。


 テロ以外のなにものでもない。もっとも、現代でそんなことが成功する確率など皆無であろうが。


 それは兎も角、新撰組は刀を振りまわすだけの組織ではない、ということ。むしろ、町の治安を護ったり、調査といった地道な活動のほうがはるかにおおい。

 

 なにをもってして敵か味方か、というのが難しい時期。いまは長州が朝敵、ということにはなっているが、薩摩や土佐などその動きはじつに怪しげである。


 いつなんどき、どうなるかわからない時期である。


 ゆえに、京にはじつにあらゆる情報と人間ひとが、飛び交っている。


 新撰組でも隊のうちに間諜がいるし、外部から接触してくる間者もいる。


 囮捜査員としてのスキルが、まさかこんなところで役に立つことになるとは、捜査員だったときにどうして想像できるであろう。


「間違いないか?」

「ええ、山崎先生と裏もとりました。薩摩の息のかかった人です」


 例の副長の別宅で、山崎とともに副長に報告する。


 この週に入って二人目である。一人目は、隊士。二人目は、通いの小者。


 その小者が、雑用などする小者などではなく、じつはご立派な武士とは・・・。


 経験から、それを察知することができた。


 表情かお視線、息遣い、所作、癖・・・。


 囮捜査員は、相手のそれらを敏感に感じなければならない。そして、逆に自分のそれらは消す、あるいは最小限に抑えなければならない。


 気づいてすぐ、それを山崎に報告する。すると、山崎は自分で裏づけを取る。


「山崎、大石おおいしを使え」


 副長は眉間に皺を寄せ、一言そう命じる。


 山崎も心得たもので、「承知」と了承する。


 大石鍬次郎おおいしくわじろうは、副長が東から呼び寄せた人斬りである。すくなくとも、大石本人はそう思っている。


 どこの組にも属さず、暗殺やその類の任務だけをこなす。


 異常犯罪者サイコパス。それが、かれに対する第一印象である。


 幼少のころ、なんらかのきっかけで虫や動物を殺すことに快感を覚え、ついには人間を害することに喜びをみいだす・・・。


 それにちかいものを、かれに感じる。


 つまり、「兎に角、人間さえ斬れればいい」、のである。


 同じ人斬りの斎藤や、薩摩の「人斬り半次郎」とはまったく異種だ。こういう気質に常識は通じない。 だれかの為、志や大義の為、あるいは金や名誉の為でもない。


 できれば関わりあいたくない、というのが正直なところである。


 いまこのときだからこそ、大手を振っていられる存在。幕末だからこそ許され、看過されている存在。それが大石である。


 ところが、なぜか大石はおれと一勝負したがった。いまのところはやり過しているが。


 こういう手合いは、斬れるなら人間ひとでも動物でもなんでもいい。相棒にちょっかいをだしかねない。それが気がかりではある。


 副長はわかっている。大石の性質たち、そしてその扱い方も。だからこそ呼び寄せ、穢れ仕事をさせているのであろう。


 自分の懐刀である斎藤をそれから遠ざけ、間者として伊東の動向を探らせる。


 あるいは、副長はなにかを予見し、斎藤をそれから外したのか?


 実際、この後、斎藤は大正まで生き残ることができたが、大石は伊東殺害の嫌疑をかけられ、新政府軍によって斬首される。


 もっとも、大石はこの後の戦のどさくさのなかで、よりにもよってその伊東の配下であった御陵衛士の残党に助けを求めることになる。


 本人の軽挙蒙昧もあったのかもしれないが・・・。


 相棒の短い唸り声ではっとする。

 それは、おれに注意を促すときの相棒の声である。


 副長の別宅は、鰻の寝床のような典型的な京造りである。

 相棒は玄関に置いていたが、玄関にいくと長い鼻面を宙に向けている。


「どうした?何者かがやってきたのか?」


 副長と山崎もやってきた。


「だれかがこの家にちかづきつつあります。ただ、相棒のしってる者、いえ、においのようです」


 宙に漂う臭いを嗅いでいるだけで、さほど警戒しているわけではない。


 会ったことがあり、そのときにはおれたちに敵意や害意をもっていなかった者、ということである。


 副長にそう伝える。


 そのタイミングで、玄関の木戸が叩かれた。



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