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死亡フラグ立っちゃってる男たち

「困ります。取次はできかねます」

「そこをなんとか、もともと一緒にいた仲であろう?」

「いいえ、取次になどゆけば、われらが叱責されます」

 屯所の門で、二人の男が門番といい争っていた。


「あ、服部はっとり先生だ」

 玉置がいった。おれは、その名をきいて1990年代に放映されていた「料理のO人」で解説をしていた料理研究家を思い浮かべてしまった。


毛内もうない先生もいる」

 つぎは田村だ。その名で、先の服部先生が料理研究家ではなく、おねぇ派の服部であることに思いいたった。

 まあ、当然だが。


 子どもたちの甲高い声で、門番も服部も毛内もこちらをみた。


 またしても御陵衛士の関係。というよりかはおねぇ関係・・・。


 っていうか、いつの間にか双子がいなくなっている。つい先ほどまで、子どもたちにちやほや、いや、これはなにもやっかんでいるのではない。子どもたちに取り囲まれ、愉しそうにあるいていた双子が、忽然と消え去っている。


「おぉみんな、元気そうだな」

「久しぶりだな」

 どっちがどっちか、とっさにわからない。兎に角、二人がこちらに向かってきた。


 おれは、頭のなかでウィキを検索した。


 服部武雄はっとりたけお。おおがらで二刀流の遣い手。剣をよく遣い、新選組では監察方と撃剣師範を務めたはずだ。


 毛内有之助もうないありのすけ。どちらかといえば文学肌でこちらも監察方、それと文学師範を務めたはずだ。


 でかいほうが服部。ちいさいほうが毛内、というわけだ。


 たしかに、でかいほうは漫画に描かれている宮本武蔵みやもとむさしのようにみえなくもない。顔の下半分が無精髭に覆われているが、けっして不快な感じではなくじつによく似合っている。


 毛内のほうは丸眼鏡をかけている。いかにも器用そうだ。算盤をはじいたり、「つれづれなるままに・・・」などと古文を諳んじそうなタイプにみえる。たしか、弓や小太刀も遣えたかと思う。


 なにより、この二人に関して重要なことは、今宵、藤堂とともに油小路でド派手に死ぬことになっているのだ。


「ちゃんと喰ってるか?」

「すこしは手習いをやってるかい?」

 子どもたちに囲まれ、二人はそれぞれの性格キャラクターがあらわれた問いかけをしている。


 ひとしきり挨拶がおわるのを、おれは相棒と辛抱強くまった。


「相馬君だね?」

 でかいほう、つまり服部がきいてきた。

「わたしは服部武雄、こっちは毛内有之助。おそらくわかっているかと思うが、われわれは御陵衛士だ」 

 服部が自己紹介すると、その横で毛内がぺこりと頭を下げた。


 毛内は、LINEのヨッOースタンプの白いうさぎみたいにキュートな顔をしている。そのしぐさもスタンプのまんまだ。


 それにしても、おれは御陵衛士のなかでどれだけ有名なのだろうか。


「みんな、さきに戻っていなさい」

「はーい!」

 おれが命じると、子どもたちは「承知!」ではなく、だらだらと仕方なしといった「はーい」を残して駆けだし、屯所の門内へと消えていった。


 門番たちも、服部と毛内の相手をしなくてよくなり、ほっとしたのか持ち場に戻っている。


「相馬主計と申します。ええ、お二方が御陵衛士の隊士であることは承知しております。新選組の屯所に参られて大丈夫なのですか?」

「ああ、まぁ御陵衛士うちはね。すくなくとも、切腹やら暗殺ってことにはならぬだろう。それは兎も角、われわれも危急でなければわざわざ訪れやしない。相馬君・・・」

 巨躯の服部が間合いをおかしてきた。おれの左脚のすぐ後ろにいる相棒が、反射的に身構えたのが感じられる。


 おれはの端で、服部の腰のあたりを確認していた。


 ウィキにあったとおり、二刀流なのだ。左腰に太刀を二本佩いている。


「おっと、すまない。兼定、だったか?坂井君が獰猛な犬、と・・・」

 坂井め・・・。


 相棒がそこかしこで人間ひとを噛み殺してまわってるかのように、御陵衛士隊内で触れまわっているに違いない。


「わたしは犬が好きですね。触っても?」

 服部は、膝を折って相棒と視線を合わせた。

「相棒、座れ。ええ、大丈夫です。おれが指示しないかぎり、相棒はおとなしくしています」

 おれは、相棒に指示してから服部にいった。

「あ、わたしもわたしも」

 毛内も同様に膝を折り、服部同様相棒の頭や背を撫ではじめた。


 その触れ方から、二人とも犬が嫌いではないことがみてとれた。


「危急でなければ、と・・・。なにか危急なことがあったのですか?」

 おれが話題を振ると、服部は相棒の頭をがしがしと撫で、それからゆっくり立ち上がった。毛内はまだ撫でている。


「先生が、伊東先生がお戻りにならないのだ」

 マジな表情かおでいってくる服部をみつつ、おれは一瞬、新撰組うちの大工の伊藤を思い浮かべていた。


 ちゃうちゃう、と自分で突っ込みを入れる。もちろん、心中で。


「伊東先生が?いったい、いつから?」

 いろんな意味でリアルに驚いているおれの問いは、それがマジであることが声音にも表情かおにもでていたのだろう。服部と毛内は互いの顔をみ合わせ、それから「はあっ」と溜息をついた。


「ということは、きみもしらぬわけだな・・・。すまなかった。昨夜、さる客人が連れてでていったようで、それを最後に消息がわからぬのだ」

「だから申したではないか、服部さん。あやつらは怪しい、と」

「あやつら?それが新撰組うちの者だと?新撰組うちの者が連れだしたのですか?」

 新撰組うちの者だと察しがついていたが、尋ねてみた。


「否、どこにも属していない者たちだ。先生の昔馴染みでね。素性のよくわからぬ怪しげな連中だ」

 服部は、気弱な笑みを浮かべた。


 おねぇの昔馴染みで素性のよくわからぬ怪しげな連中が、ついいましがた姿をくらましたわけがよくわかった。

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