表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/1255

モテ期 きたーっ!?

「あの、もし・・・」

 屯所の門がみえたころ、長屋の路地から声をかけられた。


 暗がりからでてきたのは、小柄な女性だ。おれは、即座に観察した。


 いや、いっておくが、副長や原田、それから世のおおくの男どもがするようなチェックではない。あくまでも、元警察官としての人間ウオッチングである。


 いいわけはさておき、その女性は美人だ。清楚な美人というのだろうか。お美津さんのときに習ったように、髪をみた。


 うう、わからない・・・。

 丸髷が既婚女性。それは覚えている。だが、これが丸髷なのかどうかがさっぱりわからない・・・。


「うわー、きれいな人」

「ほんとだ、きれいなお姉さんだ」

「お姉さん、こんにちは」

 おれがその女性のステイタスについて悩んでいる間に、子どもらが笑顔とともに声をかけていた。


 ちょっとまてーーー!

 おれは、衝撃とともに突っ込んでいた。もちろん、心の中でだ。


 会津候や桑名少将にはあそこまで無礼なものいいだったのが、女性となるとてのひらを返したようになっている。


「きれい」と「お姉さん」。この二大ワードは、初対面の女性に有効だということを、こんな年齢としからわかってるというのか?これが現代っ子なら話はわかる。だが、この子たちは純朴なはずだ。すくなくとも、おれはそう信じている。

 なのに、なのに・・・。


「お姉さん、みかけない顔だね?どうですか、屯所はすぐそこです。お茶でも呑んでゆきませんか?」

 よりにもよってナンパしだす市村。


 それは、いただいた刀料でまだ買い求めてもいない刀で、心臓を刺し貫かれたほど、おれにショックを与えた。


「やっやめないか、鉄っ!みずしらずの女性に、そんなこというのはまだはやい。いやちがう、そんなこというのは失礼だ」

 おれは、動揺のあまり自分でもなにをいってるのかわからなかった。


「ええ?だって、先生たちもやってるし、こうするものだって教えてもらったんだ」

 市村は、心底驚いたようにいい返してきた。

「そうだよ、先生たちに「男はそうすべし」、といわれたよ」

「そうだそうだ、そうしなきゃならないんだ」

 田村と玉置が、瀕死の状態で苦しむおれのとどめをさしてくれた。


 先生たち・・・。瞼の裏を、あれやこれやと隊士たちの顔がよぎってゆく。

 もちろん、その筆頭数名がだれであるかはいうまでもない・・・。


「あ・・・の・・・、相馬、様でございますね?」

 ああ、肝心なことを忘れていた。小柄で清楚な女性は、当惑したような顔でおれをみている。


 ん?えっ?おれ?おれの名をいったよな、たしかに?おれの名を?


 もしかして、おれの隠れファン?


「お慕い申し上げておりました」って純愛系時代劇?、そんなものがあったかどうかはしらないが、兎に角、それ系ってことなのか?


 おれは、自分の顔が赤くなったことを自覚した。


「えー、なに?お姉さん、主計さんのしりあい?」

「うそだー、主計さんの仇かなにかじゃないの?」

「いいや、きっと副長への恋文を渡すのを頼みたいだけだよ」

「それだったら原田先生にじゃない?」

 子どもらが勝手にわいた。おれ自身を全否定しまくっている。


 もう、突っ込む気力すらない・・・。


「ついにモテ期ってか?残念、それだけはないない、と申しておる」

「しええええええっ!」


 またしても、またしても背後から囁かれてしまった。


 六つ子がでてくるアニメの「イOミ」の決めポーズばりに、飛び上がってしまったではないか。


「おお、これは花香太夫ではないですか?失礼、花香殿でしたな?」

 俊冬が満面の笑みで、小柄で清楚な女性にいっていた。


「ああっ、双子先生」

「双子先生、おやつおやつ!」

「はやく蕎麦が食べたい」

「おやつ、蕎麦でいいよ」


 またしても、またしてもわく子どもたち。


「兄上、モテ期とはなんでしょう?」

 とは俊春。


 相棒よ、おれのことで勝手な自問自答をしてくれるな。

 おれは、足許でお座りしている相棒を心中で諌めていた。もちろん、相棒は黙秘権を行使している。


 花香太夫、という源氏名をきいたことがあったことを、このときにはまったく気がつきもしなかった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ